終幕:鬼は笑う

死とは痛みを伴う物である。

与えるにせよ、与えられるにせよ、死ぬ事は痛く苦しい物であると、鬼はそう思っていたのだが、しかし、いざ自分に訪れた死は、痛くも苦しくもなく、寧ろそれは


(ああ......心地良いな、これは......)


とても安らかな終わりだった。

ただただ、心地よく。

ただただ、暖かで。

まるで、遥か昔、住処にしていた山で仲間達と火を囲んで酌をしていた時のような......


「おーい、大将!何そんなとこでボーッとしてんだよ!」


体格の良い鬼が呼ぶ。


「ニャハハー、また酔ってるんだよ〜きっと。かしらは酒好きな癖して弱いんだもんな〜。」


能天気そうな鬼が続く。


「鬼神様はそこまでお酒、弱くない。」


無愛想で一番小柄な鬼が更に続く。


「あれ〜?そだっけ〜?」


「酔ってるの、お前の方。」


それは死の間際に見る走馬灯か。

それとも夢でも見ているのか。

とっくの昔に死に果てた筈の仲間達が、相も変わらず楽しそうに、誰も彼もがケラケラ笑い、目の前にいた。


「お前達......何でここに?」


つい口からそんな言葉が漏れて、仲間達は皆不思議そうに首を傾げて視線を合わせる。


「大将が呼んだんじゃねえのか?」


「俺が?」


「あっれ〜?かしらじゃなかったのか〜。じゃ誰が集めたんだろね〜?」


「どう言う事だ?」


「わからない、僕等、気付いたらここに居た。見知った顔ばかりだから、鬼神様かと。」


当然ながら見に覚えは全くない。

考えた所で理由もわからない。

だから鬼は考えない。

元々何かを考える事は得意ではないのだ。

わからない事はどうでも良い、今この場にいる者達は例外なくそう言った者達だ。


「そんな事よりさ〜これからどうするの〜?かしら。」


だから次の瞬間には話題は変わる。

それはこれからの話


「カカッ!これからなんてもう無いだろ?俺達はもう終わってるんだぞ?」


ここは終着点である。

もう誰にも、これからなどありはしない。


「だが、まあ、せっかく久方ぶりに集まったんだ。酒も肴もありはしないが、語らいは出来るだろう。付き合え。」


語り合うのは過去の話。

生きて頃の思い出話。

楽しかった事、苦労した事、何もかもを笑い飛ばして、鬼の集会は続く。

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幸ある世界の終わりかた 鳥の音 @Noizu0

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