act.3 短絡的に






 「明星、何しているんだ?」

「う……」

バニラとの会話を聞かれてしまったかもしれない。大場セイラにじっと見つめられる。

「その女の人はお前の知り合いか?」

セイラの視界にバニラが入る。これはまずいのではないかと晴彦は内心焦る。

「あんた関係ないじゃん……」

咄嗟にバニラを自分の背後に隠す。

「なるほど。その人のことは訊かないでおくが、あれらはなんだ?」

「あれ?」

話題を変えたセイラが指を指したのは、先程リチュオルが鎌の右腕で破損させた道。コンクリートの地面が引き裂かれている。

説明してもわかってくれないし説明をするのも面倒だと晴彦は感じる。

「俺は知らないけど(リチュオルのせいだから)」

「ならいいんだが。これ警察くるかもしれないから早く帰れよ」

「あっそ」

セイラはそれだけ言うと来た道を引き返し帰って行った。

「なんだぁあいつ」

「あの子は?」

バニラは晴彦の背後から出てくる。

「俺のクラスの女子。なんかちょっと苦手なんだよ」

「でも一応心配してくれたじゃない。どこが嫌なの?」

「見てるとなんかひっかかるんだよなぁ。昔どこかで会った気がするんだよ」

晴彦はバニラに何故セイラへの苦手意識があるのかを説明する。

「あの顔、高校入学以前に見た気がするんだけどそれがいつだったか覚えてないんだ」

「小さい時に遊んだ事あるの?」

「いや、幼・小・中のどっかで一緒でもなかったし……」

「会った気がする、か……」

バニラは晴彦の話が気になる。

「それデジャヴかしら」

「デジャヴ?」

「覚えのないのに覚えがあるように思ってしまう現象よ。脳の錯覚と説明されることが多いけど」

「多いけど?」

「前世の記憶とも言われてるわ」

前世。自分が騎士の生まれ変わりならある物。しかし肝心のその記憶がない。

「ええ!? 俺前世でアイツと出会ってるかもしれないの!? 俺前世の騎士だった事なんて覚えてもないのに!?」

前世のことなど思い出せないのに衝撃の事実を聞かされた気分に晴彦はなる。

「あくまでも可能性はあるって話よ」

「じゃあアイツも、騎士かもしれないの?」

「そうよ」

「もう訳わからない……もう帰ろう」

晴彦の十六回目の誕生日。複数の異常事態が重なり続け、普段使わない脳が悲鳴を上げそうであった。



  ※


 「晴彦、十六歳の誕生日おめでとう!」

その日の夜。晴彦の父が購入したケーキをテーブルに置き、晴彦のバースディパーティーが始まった。

「あ、ありがと」

晴彦は今日の出来事をまだ処理出来ずにぼんやりしている。目の前のケーキに焦点も合わない。

「お兄ちゃん元気ないけどどうしたの? 毎年ケーキ楽しみにしてるのに」

晴彦の妹、ひなのが皿を晴彦に渡す。

「食べないなら私がお兄ちゃんの分も食べるよぉ?」

「こら、今日はお兄ちゃんの誕生日でしょ」

晴彦の母はケーキに十六本のロウソクを刺し火を着ける。

「じゃあ早速、」

ひなのと母は定番の歌を歌い出す。

「「ハピバスデートゥユー! ハピバスデートゥユー! ハピバスデーディアお兄ちゃあん~ハピバスデートゥユー!」」

「……っ」

晴彦はしぶしぶロウソクの火に息を吹きかける。しかし、火は消えなかった。

ボッ

むしろ火は強くなったのだ。ケーキが火に巻かれ燃えている。

「!!?」

晴彦の両親とひなのは驚く。

「わあああ!!」

ひなのはケーキにジュースをかける。火は収まり消える。

「え!? 何どうしたの!?」

ぼんやりしていた晴彦ははっと正気になる。

「ケーキのロウソクが燃えたの!」

ひなのは燃えて黒焦げになったケーキを見つめる。炭のように真っ黒である。

「今さっき、お兄ちゃんの口から火が出て来た気がするんだけど」

「はぁ!? 出してない! 出せない!」

晴彦は確かに火を消すために息を吹きかけた。しかし、結果は逆だった。

「なんで俺のせいになるんだよ!」

晴彦は立ち上がり自分の部屋に向かって歩く。


  ※


 バタン!

晴彦は自分の部屋のドアを開ける。部屋の中には犬の姿のバニラがいた。

『晴彦くん、誕生日は?』

「ケーキが台無しになって駄目になった!」

晴彦はベッドに勢いよく俯せになる。

『台無しって?』

「俺がロウソクの火を消そうとしたらケーキが燃えたって妹が言い出したんだよ」

『それって……』

バニラが晴彦に近寄る。

「バニラ?」

『それは『スキル』よ』

「スキル?」

バニラは何故晴彦が火を噴いたのかを話し出す。

『騎士と王子(プリンス)にはね、地球上の元素を操る力があるの。身体から出すことも出来るの』

「はい?」

晴彦は顔を上げる。

『晴彦くんは火を操る騎士ってことよ』

「俺、人間だよね?? ちゃんとあの……橋の下で拾われたとかじゃないよね?」

『ああ、ごめん』

困惑する晴彦を見てバニラは話を止めた。

晴彦は再びベッドに俯せになる。

「ああああ……誕生日ケーキぃ」

食べられなかったケーキに晴彦は思いをはせるのであった。



  ※



 「晴彦! どうしたんだ!」

「拓也うるさい」

次の日。寝不足の晴彦が学校の教室にいた。佐々木拓也がいつものように明るく接する。

「昨日の誕生日何かあった?」

「色々あったんだよ」

晴彦の機嫌は悪い。

「佐々木くんと明星」

機嫌を悪くしている晴彦をセイラが見る。

「……明星、」

「大場さん」

「あれから大丈夫だったか?」

「別に。警察とかには出会わなかったけど」

「??」

話している晴彦とセイラを拓也は見る。

「そんなことより、」

「?」

「俺のケーキ!!」

晴彦はいきなり叫ぶ。

「昨日の誕生日ケーキ、なんかよくわからないまま真っ黒焦げになったんだよ!!」

セイラと拓也は叫ぶ晴彦に驚く。

「よくわからんけど、お前ケーキ食えなくて機嫌悪かったの?」

「そうだよ!!」

拓也は呆気に取られる。

「お前高校生にもなってケーキ一個でぐずるなよ」

「俺にとっては重要なんだよ」

セイラは馬鹿馬鹿しくなる。

「短絡的だな、明星」

「誕生日ケーキなめるな!」

くだらない小競り合いのようにも見えるやり取りが朝の教室に響いた。

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地球戦記バトラーライツ 朝霧彩矢/イリガサ @tatsuya_enishi

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