魔女裁判 〜true or lie〜
プル・メープル
プロローグ 〜不気味な語り部〜
あらあら、また1人、この世界に迷い込んでしまったようですね。
いえいえ、歓迎していますよ。
もう少し早く来れば、もう1人、客人がおられたのですがね……。
彼がどこに行ったかって?
彼は、既に帰らぬ人となってしまいました。
何故かって?
私が何かをしたという訳ではありません。
彼が、『自ら命を絶った』のです。
ええ、それはもう残酷に……。
自分に対して、あそこまで残酷になれるのは、『素質』があったのでしょうね。
あなたは知っていますか?
生きているうちに感じる苦しみや痛み、全て合わせると自ら命を絶つ痛みや苦しみと同等になると。
つまり、あなたは生きているだけで、苦しみたがっている、痛みを感じたがっている。
そんな馬鹿げた生き物の1人なんですよ。
そうですよねぇ、実に愚かです。
先程の少年の死に顔、見ますか?
あ、いりませんか……それは残念。
あなたはこれで、未来の可能性をひとつ、捨てたことになりますね。
いやいや、こっちの話です。
では、本題に入りましょうか。
さて、これを読んでいるということはあなたも、彼らと同じく『人間』なのですね。
ええ、わかっています。
そんなの当たり前じゃないか。
そんな顔をしていらっしゃいますね?
もちろん、文字というものは人間が作り出したものですから、人間にしか読めないというのも、また1つの事実。
しかし、ほかの動物に解読が不可能か?
そう聞かれると、素直に頷けないものです。
なぜならそれは、ほかの動物にも知性があるから。
では、その知性とはどんなものでしょう?
学習するもの?
まあ、大まかにいえばその通りですね。
ですが、私の求めていた答えとは程遠い。
知性とは、『理性を手助けするもの』なのです。
理性は分かりますよね?
ええ、そうです。
自らの欲望や感情に任せた行動を制止してくれるものですね。
では、そんな立派な理性を誰もが持っているはずだと言うのに、なぜ殺人事件などの残酷な事件が起こってしまうのでしょう?
答えは簡単です。
『理性の抑えられる限度を超えた欲求を感じてしまったから。』
誰かが遅刻した、そんなことがあったとしましょう。
あなたはそれだけでその人を殺しますか?
そんなはずはありませんよね。
え?殺す?実にサイコパスですね。
あ、冗談ですか。残念です。
まあ、あなたはその人を殺さないということですね。
ですが、怒りますよね?
5分の遅刻ならまだしも、30分の遅刻だとしたら、怒らないはずがない。
それがもし、時間の決まった約束だったりしたら、更に怒りますよね?
そう、人生は長いと言うのに、たった30分の時間を無駄にしただけで、人間は怒りを感じるのです。
では、想像してください。
あなたはバンドを組んでいて、今日はプロになるためのオーディションがあります。
この5人で世界一になる、なんて、そんな馬鹿げた約束をしてから10年が経っています。
今回を逃せば、きっと夢が叶うことは無いだろう。
そんな場面です。
時間になってもメンバーの一人が来ません。
そして、彼は結局、会場には現れませんでした。
ギターボーカルだった彼のいない演奏は味気なく、当たりまえのようにオーディションには落ちました。
後で聞いてみると、彼は寝坊で来れなかったようです。
実に最低な男ですね。
ほら、聞いているあなたも、心の中にモヤモヤが出来たんじゃないですか?
言わなくてもわかっています。
では、この物語を簡潔に、そしてスッキリと終わらせてあげましょう。
『オーディションから1ヶ月後、その日の昼、私は、寝ている彼の胸に、包丁を突き立てました。』
ほら、スッキリしたでしょう?
30分の無駄な時間だけで怒りを感じる愚かな生き物が、10年という長い年月の努力を一瞬で無駄にしてしまった張本人を殺したのですから。
え、まだモヤモヤが残っている?
それはきっと、この話の裏設定が、あなたの心に語りかけているのでしょう。
『殺されてしまった彼の本当の遅刻の理由は、寝坊ではなく、ガンを発病していることを隠していた彼が、家を出た途端に倒れ、病院に搬送されていたから』という真実が隠れているのですね。
この時点で彼は、余命1ヶ月を言い渡されていました。
これほどになるまでに治療をしなかったのは、きっと、バンドを辞めたくなかったからなのでしょう。
そんな真っ直ぐな彼の命を奪った『私』は、許されません……か?
実はこの話、真実はもう1つ裏にあるのですね。
本当に命を奪ったのは『私』なのでしょうか?
この話には3つのキーワードが隠されています。
『余命1ヶ月を言い渡された』
『1ヶ月後の昼』
『寝ている彼』
あら、この3つを繋ぎ合わせてみると、偶然にも、もうひとつのENDが垣間見えますね。
『私は寝ているかのようにガンで亡くなっている彼の胸に、ナイフを突き立てた』
あらあら、不思議。
この方がしっくりくるのは私だけでしょうか?
いいえ、それはあなたも同じはずですよね?
だって、彼にナイフを突き立てたのは『
ふふふ、そんな冗談は置いておきましょう。
この先に進むのなら、それなりの覚悟をしてください。
あなたもこれからは、あのクラスの一員になるのですから。
では、始めさせていただきます。
『魔女裁判』を!
魔女裁判 〜true or lie〜 プル・メープル @PURUMEPURU
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