第九十七話「始めての学園生活 後編」

「さて、これからこの教室に居る皆は、学院生活を共にする仲間だ。 まずは皆自己紹介といこう。 最前列から順に皆に名前と特技…… そうだな、これからの目標を聞かせてもらおうか」


 ブライソン先生はそう言うと、一番前の一番端に座る生徒にそう声をかける。 生徒はいきなり振られ、慌てて「はっ、はい!」と立ち上がると皆の方に振り返った。


「えっと……ディル・フォン・デリオスです。 男爵家の三男で―――」

 

 そんな感じで始まった自己紹介は、前列が終わり、次の列へと進む。 男女比は同じくらいだ。 ちなみにアイエル様は、自分も皆と同じように自己紹介をしなければならない事に途中で気付き、「どうしようロゼ… どうしようロゼ…」と取り乱し始め、涙目で僕に助けを求めてくる。

 入学式よりも人目は少ないとは言え、カンペもない状態で何を言って良いかも分からず、完全に緊張してしまっている様だ。

 僕は苦笑いしながら「普通に名前を名乗って、特技は魔術ですって言って、色々な事を学びたいですと言えば良いと思いますよ」とアドバイスすると、アイエル様は「うぅ…」と項垂れる。


「アイエル様はとても素敵なレディなんですから。 もっと自信を持ってください」

「ロゼがそう言うなら… がんばる……」


 そして次第に順番が迫り、まずはニーナ様が華麗に自己紹介をこなす。 流石貴族として場慣れしているのか、毅然とした態度だ。 続いてシュエが無難に自己紹介を終え、セシラ様は端的に「セシラなのじゃ。 皆よろしくなのじゃ」と終わらそうとして、先生に特技と目標を聞かれる。 完全に人の話を聞いてない。「そうじゃった…」とか言って、得意なものは得にないと、そして目標は「もっと美味しい料理を食べたいのじゃ」と学院とまったく関係ない事を言って笑いを誘う。 セシラ様だから仕方ない。 僕も苦笑いだ。

 そして、僕の番となった。


「皆様、始めまして。 ロゼ・セバスと申します。 グローリア家に使える執事の息子です。 特技は魔術と剣術でしょうか… こちらのアイエルお嬢様の執事としての仕事も致しております。 学院での目標は、そうですね…」


 僕は少し考え、「グローリア家の執事として恥じぬ為に、色々な事を学び、立派な執事となる事です」と締めくくった。

 そして、アイエル様の自己紹介の順番となった。

 アイエル様は緊張しつつも立ち上がると、深呼吸を軽くして自己紹介を始める。


「アイエル・フォン・グローリアです…… えっと、 あの…」


 緊張のあまり、次の言葉が出てこないのか、言葉に詰まるアイエル様。 僕は小声で「特技ですよ。 アイエル様」とサポートする。


「と、特技はまじゅちゅです」


 あ、噛んじゃった…… アイエル様は見る見る顔を赤くする。


「落ち着いて下さいアイエル様。 次は学院での目標を言えば終わりです」


 アイエル様は僕の言葉に落ち着きを取り戻すと、目を閉じてもう一度深呼吸をし、少し考えてから意を決して目標を掲げる。


「えっと、私の目標は… お友達をたくさん作りたいです」


 少し恥ずかしそうに、上目遣いなのが少し可愛いらしいが、人見知りなアイエル様としては、とてもハードルの高い目標だ。 どう言う心境の変化だろうか… 僕としては嬉しい限りだが……

 そして、アイエル様の自己紹介が終わり、何人か自己紹介が続いた後、先生が学院の事を説明してくれた。

 僕達が通うこの塔は、一階が談話室で今いる二階の教室が一般教室。 三階が魔術教室で四階が魔道具を作ったりするための工房があり、五階には特待生専用の教室があるらしい。 更に上の六階が学年教員室。 七階が学年主任の個室らしい。

 その他にも、中央に建つ城には、巨大な図書館があったり、城の最上階には学院長の私室があったり、他には生徒会室があったりするらしい。


 因みに、ラティウス皇太子殿下が言っていたが、生徒会は実力で選ばれる。

 なんでも年に一回。 序列祭なる全校生徒を対象とした競技会が開かれるみたいで、そこで各部門上位の成績を収めた者が特待生として選ばれ、生徒が主体の学院議会に参加する権利を得る。


 新入生にはかなりハードルの高い競技会だ。 上級生と下級生がまとめて実力を判断される訳だから、体格や経験のアドバンテージの差は計り知れない。 正直下級生が上位に食い込むのは、ほぼ不可能だろう。 だが逆に、学年で別けないと言う事は、誰にでも生徒会長の椅子が開かれていると言う事だ。 学院は本当の意味での実力主義を体言していると言える。


 因みに学院で、生徒会に選ばれるメリットはかなり大きい。 学院の規則から、行事までを一括して決定していて、教職員に匹敵する権限を与えられている。 それに、学院で生徒会を経験しているのと居ないのとでは、将来の進路にも大きく係わる。

 先生が説明してくれたが、生徒会は世に出る前の予行演習と言う意味合いが大きく、生徒主体の自治を体験させるのが主な目的らしい。

 その証が、特待生だけが着ける事を許される外套だ。 これにも意味がある。

 外套を着けている生徒は、特権を得る代わりに一般生徒の見本となり、学院の自治を担う義務が課せられる。 これは一般的な貴族が課せられる義務と同じだ。 基本的に学院では家柄や地位を持ち出してはいけない決まりがあるが、これは差別をなくす為と言う名目の元、無能なモノに権限を与えない為の独自の決まりなのだが、そう言った意味で、外套には権限のある優秀な生徒と、権限のない一般生徒を区別するた為の意味が込められているのかも知れない。

 所謂、貴族と平民の差を、擬似的に学院内に作り出しているのだ。 なかなか考えられていると思う。 生徒達による生徒達の為の自治。 教職員から与えられるだけでは、幾ら平等と説いた所で、確実に家柄や地位による序列が生徒達の中で出来上がってしまうだろう。 そう言った意味であえて生徒に権限を与えるのは利に適っている。

 僕が感心して学院の事を聞いていると、序列祭の日程が告げられた。


「そう言うわけだから、これから一ヶ月後、序列祭が開催される。 新入生の君達には不利な条件ではあるが、その祭典での結果が君達の今の実力の指標になる。 精一杯頑張ってもらいたい」


 そうブライソン先生は締めくくると、これからのカリキュラムが書かれた表を皆に配る。

 僕達はそのカリキュラムを受け取ると一通り目を通す。 内容的には一週間の内六日間。 びっしりと予定が詰められていて、休日が一日だけ設けられている。 授業の内容としては、語学、算学、貴族学、魔道学、一般教養学の座学を中心とした五教科と、基礎体術、剣術、魔術の実技を中心とした三教科。 それとは別に一日設けられた課外授業の、計九教科で構成されている。

 課外授業の内容はその日によって違うらしく、学院内では学ぶ事が出来ない事を中心に教わる内容の様だ。 魔物を狩ったりもこの授業で行われるらしい。 ちなみに一日の拘束時間としては昼の休憩を挟んで約六時間。 計五時間になる。

 それ以降は基本的に自由行動で、自習するも良し、お金のない生徒は仕事をしたりするのも良しと言った、自主性を尊重した内容になっている。 ちなみに生徒会はこの時間で議会を開いたりしている。 学習とは別に色々と大変そうだ。 僕たちは先生の説明を受けた後、続いて学院を案内してもらえる事になった。


「それではこれから学院を案内して廻る。 逸れない様に皆ついてくるうように」


 そうブライソン先生は言うと、生徒達に付いて来る様に促す。

 一番前の席から順に立ち上がると、僕たちは先生の指示にしたがって移動を開始した。 因みにローデンリー先生が逸れる生徒が出ない様、最後尾から付いて来る様だ。 こうして、僕達は学院を案内してもらい、その日は終えるのであった。

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アイエル様の最強執事 ~魔道を極めた元殺し屋は、それでもお嬢様の執事です~ にぃ! @21ya

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