【即興小説】犯人とトリックは闇の中へ

キム

犯人とトリックは闇の中へ

『犯人はここにあった宝石、ラピスラズリを盗んで逃亡したのです。そしてその犯人とは――』


 ここまで読み上げて、ブタ先生は顔を上げる。

「さあ皆、犯人とトリックは分かったかな?」

 そう生徒たちに問いかけると、みんな勢いよく、はいはいはい! と手を上げた。

 ウシ、ヘビ、イカ、ヤギ……ここは多種多様の生物が集う教室だ。今はブタ先生の授業の時間で、小説『消えた宝石の謎を追え』を読んでいた。ブタ先生自身も未読な作品のため、先の展開も皆で予想してみよう、といった趣旨である。

 そして話は推理パートへと突入し、いざトリックが明かされる、といったところで、生徒たちに投げかけたのが先程の質問だ。

「はい、じゃあウシさん」

 ブタ先生は自分の腹の肉をぽん、と一つ打ち、牛さんの名を呼ぶ。

 指名をされたウシさんは、勢いよく席を立ち、自信満々に答えます。

「も~。犯人はAさんだ。Aさんはとっても力が強いので、宝石が飾られていたショーケースを粉砕して、そのまま宝石を持っていったんだ」

「んー……そうなると、ちょっと前にも書いてあったけど、ショーケースに設置されていた警報装置が作動しちゃいますよね」

「あ、そうか……」

 ウシさんはしゅんとした表情をして、席に座りました。

「他に分かる人、いるかな?」


 その後の何匹、何頭かの生徒が答えていくが、どれも外れてしまう。

「じゃあ、イカさん。わかるかな?」

「へっ、こんなの簡単だよね。犯人は超能力を使ったんだ。そうすればショーケースに飾られていた宝石を、警報装置を鳴らすことなく盗むことができる! どうだ、完璧だろ!」

 ふふん、とイカ墨をちょっと漏らしながら自信満々に答えるが、ブタ先生は困った顔をする。

「推理小説には、『ノックスの十戒』というお約束ごとがありまして……まあ、簡単に言ってしまうと、そういった超能力とかは登場しちゃいけないんですよ。なので、きっとその線もないと思います」

「なんだと! じゃあどんなトリックだって言うんだ! 見せてみろ!」

 イカさんは自分の答えが正解でなかったことに怒り、ブタ先生に詰め寄ります。

「やっ、ちょっと待ってください。今から読み上げますから」

「貸せ! 俺が読んでやる!」

 そう言ってイカさんがふんっ! と勢いよく本を取り上げると同時に、イカスミがピュッと出てしまい、本を汚してしまいました。


「「「あっ……」」」


 この教室に居た誰もが声を上げました。

 イカさんは自分が持つ本に目をやると、本は真っ黒になってしまい、当然トリックも犯人も先の展開も真っ黒に塗りつぶされてしまいました。

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