朝、隣に君がいるように。
桜々中雪生
朝、隣に君がいるように。
僕は、夜眠るのが好きだ。朝起きると、君が隣で眠っているから。君より少し早く起きて、寝顔を見ることができるから。朝起きて一番はじめに、君の顔を見ることができるから。
微かな寝息が耳に心地良い。すやすや眠る君を抱きしめたくなって、けれど起こしちゃいけないと、我慢をして、ふふっと小さく笑うと君はようやく目を覚ます。ゆっくりと身体を起こすけれど、微睡みの中からまだ抜けきれなくって、とろりとした瞼を白くしなやかな指でこする。
おはよう。
君の口から鈴の音で言葉が転がる。僕も、少し低い声で、君に同じ言葉を返す。いつもと変わらない朝。これからも、こんな朝が続くのだろう。そう考えると、僕はくすぐったくなって、やっぱり笑ってしまう。
君の手を握る。起きたばかりだというのに、ひんやりと冷たい。どうしてだろう。
君はの身体はいつも冷たいね。
そう言うと、君は決まって眉を下げて、怒られた仔犬のように小さくなって、ごめんね。と言う。謝ることなんて何一つないのに。僕は君のそんなところが好きだと、何度言っても君は謝り続ける。そんな君を見ていられなくなって、思わず抱きしめる。もう起きたんだから、構わないよね。そんな言い訳をしながら、君を抱きしめる。どろりと熟れきった果実のような匂いがした。
今日は生憎の雨だ。残念ながら、君を車椅子に乗せての散歩はできない。部屋の湿度も適切に保っておかないと、繊細な君はすぐに弱ってしまうから。脆く崩れ去る腕や髪は見たくない。君はいつでも綺麗でなければ。君を守って、幸せに生きていくことが、僕のすべてだから、そのためになら何だってしよう。冷たい君の手を握って、その手に羽根のように口づけを落とす。
いつもと変わらない朝。これからも、こんな朝が続くのだろう。
朝、隣に君がいるように。 桜々中雪生 @small_drum
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます