第8話 魔王の役割


「魔王! こんな城にぬくぬくとこもりやがって!

 人々の恨み、この剣で晴らそうぞ!」


「なんだ!? 勇者か? 私は、恨みを買う覚えはない!」


「よくもぬけぬけと! 死ね!」


「お前らのおかげで忙しくて身動きもとれないっていうのに

 こんどは私を倒すだと!? いい加減にしろ」


「魔物がどれだけのことを今までしてきたと思っているんだ!

 村を焦がし、人々を傷つけ……」


「『魔物』……ねぇ。お前はここまできて、わからないのか?」


「わかっているぞ。魔王さえ倒せば、世界は平和になると」


「違う。お前の言う『魔物』は、原則的に頭が悪いのだ」


「だから何だ!

 お前が魔物に村を襲わわせているのだろう?」


「お前らの仲間にも、盗賊とかいう連中がいるだろう?

 村を襲うのははそういう輩(やから)だ」


「嘘をつけ! 魔王が、人間界を侵略するために魔物を……」


「侵略できるなら、とうに統率(とうそつ)を取って、村ではなく町を襲うわ!

 あいつらが私のいうことを聞くとでも思うのか!?」


「事実言うことを聞いているから、襲うのだろう!」


「言うことを聞く、聞かない以前に、言葉もつかえないんだぞ!?」


「うむ……が、しかし、各地には魔王の手下なるボスがいるじゃないか!

 あいつらを使って、力で従わせているんだろう!」


「確かに我々は、各地域に『ボス』と呼ばれる責任者を設置していた。

 が、それは欲望のままに動く魔物を制するため」


「いいかげん、醜いウソをついて、命乞いをするのはやめろ!」


「命乞いでもなんでもない。『ボス』を倒して、『魔物』は減ったのか?

 『ボス』を倒し、秩序を破壊したのは、我々ではなく、お前だろう」


「俺たちが悪いというのか!?」


「そもそも、生き物を殺すことに正義などあるのか?」


「勇者は、人間を救うために戦うもの。つまり、勇者のすることはすべて正義!」


「そもそも、魔物が人を襲うよう仕向けているのは、お前らだ」


「なんてことを言いだすんだ。殺される方が悪いというのか」


「きれい事だけで、空腹を紛らわすことは出来るか? 寒さはしのげるのか?」


「魔物は人間に対して害をなす物。それが生きることは許されぬ」


「お前らは、我々の住処に土足で立ち入り、木を削り、街というものを建て、

 大量虐殺した。結果、住む場所を失い、その日の食にも困っている……」


「だからといって、人を襲い、強奪する理由にはならない!?」


「我々から襲うことはまず無い。自らが弱いことを知っているからだ。

 しかしお前らは問答無用で斬りかかり、少ない金品すら奪っていく」

 それが、お前らの『正義』なのか?」


「世界は人間のもの。魔物は滅ぶべきもの!」


「仮にその言い分を聞いたとしても。お前らが半端な正義で『ボス」を倒した

 おかげで、どれだけの人間が、欲望のままに動く奴らの餌食になったと思う?」


「何が言いたい」


「勇者などと自らを名乗り、『魔王』を倒すことが、正しいと思っているのか?」


「当然だろ。それに、魔王。

 俺は知っているぞ。魔王はダンジョンに宝箱を置く」


「確かに置いているな」


「あれは、勇者である我々に支援物資を送り、挑発しているんだろう?

 何を企み、ここまで誘った!?」


「それは違う。ダンジョンにある宝箱は、餌だ。」


「エサ?」


「愚者は欲望のままに動く。だから相応の財宝を置いておけば、

 お前らの言う『魔物』はそれに集まっていく。そのための見せ餌」


「魔物へ見せ餌を置いて、何か意味があるのか?」


「よそ者が入らないダンジョンに仲間を集め、

 お互い干渉することが無きよう、棲み分けるという、先人の知恵だ」


「あれは冒険者のものではないのか?」


「当然だ。ダンジョンは我らの住処。

 そこへ勝手に立ち入り、惨殺をし、金品を奪っていくのは、ただの強盗だ」


「魔物が持つべき土地などない」


「残念だが、正式に土地権利を手に入れている。

 無断に立ち入ることは、そちらの世界でも罪ではないのか?」


「私は勇者。そのような些末な罪は気にせん!

 大義のため、人間のために、魔王をたをさねばならぬのだ」


「ならばやってみろ。そして倒すがいい。

 しかし、そのあとにはどんな世界が待っているか、よく考えるのだ」


「考えて、戦って、やっとここに来た。いまさら迷いは無い」


「魔王を倒せば世界は平和になる。それは幻想。

 今よりなお『魔物』、が猛威を振るうぞ?」



今回は、ひとつひとつのセリフを多めにしてみて書いて見た。

内容は、魔王の立ち位置と内政のお話。なぜ宝箱はダンジョンに設置されているのか。なぜあちこちにボスがいるのか、そういうファンタジーの当たり前に、理由をつけてみました。

 結局、なぜ、王は、勇者に魔王を倒せと命じたのか。そもそも魔物がいる世界で魔王を退治することに、どんな意味があったのか……。


 勇者を祭り上げ、冒険に出した施政者の思惑は、

 自分たちが世界の中心になること。


 ある国で、魔物は悪、という刷り込みを行いました。

 襲うつもりの無い魔物だとしても、見たら殺すよう、一丸となって教育しました。


 結果、動物や、人間以外の人種。場合によっては同じ人間、他国の人すら「人間では無い」と思うようになって、そういう人を片っ端から排除していきました。


 その慈悲の無い動きに、周辺国は、つぎつぎ堕ちていきました。

 が、それだけでは倒せない、強い国に対峙したのです。

 そこで、王はいいます。

「勇者よ。魔王を倒せ。さすれば平和が訪れる」と。

……ここに登場する『魔王』は、本当に魔王だったのでしょうか?

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「魔王」っていう話 月宮雫 @shizuku_tkmy

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