第7話 幼女勇者と姉魔王
「どうしたんだい、お嬢ちゃん。こんな所にひとりじゃ危ないよ?」
「お嬢ちゃんじゃないよ、ゆうしゃだよ」
「ここがどこだかわかってるの? 魔王の城だよ。危ないんだよ?」
「しってる! わたしは勇者だから、まおーを倒しに来たんだもん」
「……仲間もいないのに? どうやってさ」
「いたよ……さっきまで。大事なお友達だもん」
「じゃあ、その仲間はどこにいったんだい?」
「……いつも、一緒にいたんだよ……でも、みんな、動かなくなっちゃった」
「ああ、側近が倒したのか。そういえば側近は?」
「そっきん、ってまおーの大事な人?」
「大事かどうかは、わからないけど、まあ一番仲がいい奴かな」
「……どっちにしても、このお城で、生きているるのは、私とまおーだけ」
「そうか。相打ちか……」
「このけんがあれば、魔王を倒せるって」
「じゃ、やってごらん」
「えい!」
「……残念だが、お嬢ちゃんじゃ足りない。私にキズすら付けられないんだ」
「どうして……だって、わたしは……まおーを倒すために……」
「わー。泣きそうにならないで!」
「私、まおーにコロされちゃうの? それで、まおーは、世界を滅ぼすの?」
「うーん。そんな気もないんだけどな。
人間界で、魔王はいったいどう思われてるんだろ」
「人間を皆殺しにする魔物をつくりだした、いちばんわるいイキモノ」
「……いってることはエグいけど、この子、殺気が欠片もないのよね」
「それでもわたしはあきらめない。
キセキがおきるかもしれないから、たたかうよ!」
「……でもなあ、この子に私は倒せないし、今すぐ殺す理由もないし
……そうだ! おなかすいてない?」
「すいてるよ! だって、ここらへんの魔物はおいしくないから……」
「なら、とりあえずご飯を食べようか?」
「やだ! 知らない人から、ものをもらっちゃだめだって、魔法使いが言ってた」
「知らない人じゃないよね? 私は魔王。お嬢ちゃんは知ってるはずだよ」
「そっか。そういえばそうだね」
「とりあえず、ご飯でも食べておちつきなさい?」
「わかった。じゃあ、食べる」
「今すぐ用意するから、そこのイスに座ってて」
「この、かっこいいイス?」
「そうだよ。私はごはんを用意してくるから。少し寝ててもいいよ」
「……どうして? どうして、まおーはわたしにやさしくしてくれるの?」
「だって、この城には誰もいないんだろ? 自分で作るしか無いじゃないか」
「そーじゃなくて、だって、わたしはまおーをやっつけに来た、敵なんだよ?」
「部下がいない魔王にできる事なんて、
こうやって。料理を作ること位しかないからね」
「私をコロさないの?」
「いいから! 子供は黙って大人に甘えなさい!」
「はっ……はい!」
「……魔王の手料理、いっぱい食べて、ゆっくり寝て。
先のことはそれから! いいね?」
「あい! わかった……」
――それからどれくらいの時、勇者と魔王は一緒に過ごしたのか。
知る人は誰もいない。
*
端々にハードさが出る幼女勇者と対処に困る魔王を書いてみたよ。魔王だけを倒す道具だった勇者。人間の「悪」のシンボル的役割しかない「魔王」。すべてが世界のアイコンでしかなくて、その役目を果たすために生きてきた2人。
魔王以外の魔物を、命と引き換えにすべて倒した勇者の仲間。
そののおかげで勇者たちにもたらされたのは、あらたな人と人の出会いでした。
この先、結局魔王にやられて、幼女勇者が転生を繰り返すようなお話を読んだこともある気もするけど、この世界の先に、そんな未来はないです。
魔王も、勇者も、大切な人を失い、存在意義すらなくなったけど。同じ境遇の2人が、ちょっとずれつつも、やっと、生きているって感じられる小さな幸せを得ることができる。そんな感じの話のつもりでかいたよ。きっとこの先、2人はのらりくらりと喧嘩したりしながら、魔王城で生きていく。それはすごく楽しいわけではないけど、それなりに楽しくて。それが、いままで手に入らなかった「幸せ」なんだって、なんとなく分かる……そんな、あたたかい未来がまっている、と考えてるよ。
そういえば、魔王って生きてるのかな。あと、死んでも、何度でも生き返る勇者っていうのも、本当に生きているのかな? そもそも生きるって何!?
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