第13話

「……それで、はどうしてココに居るんだ?」

そう言いながら、怖い顔でカイトがディアさんを睨んでいる。


……どういうこと?

二人は知り合いなの……?


私はカイトの背中からひょっこりと顔を出して、ディアさんを見た。


ディアさんは相変わらず目深にフードを被っている為に、どんな表情をしているのか、ここから伺い知ることはできない。


「カイトは……ディアさんと知り合いなの?」

カイトの着ているシャツの裾を握ると、カイトは少し身体を屈めながら私の口元に耳を寄せながら、小声で呟いた。


「ロザリ……リア姉。コイツは……俺が薬を使った奴だ」



……え?

――心臓がドクンと跳ねた。


「それは、あの時に渡した……薬の事?」

カイトは気まずそうな顔で、私から視線を逸らすようにしながら黙って頷いた。


薬とは、数ヵ月間に買い出しに出掛けるカイトに、御守り代りにあげた万能薬の事だ。

夜の私の方が作った薬なので、その効果は折り紙つき。死者以外ならば何でも治す魔女の秘薬である。


カイトは買い出しの帰りに瀕死の旅人に、万能薬を使用したと言っていたが……


「カイトが助けたって言っていた瀕死の旅人は……ディアさんだったって、こと……?」

「ああ。名前は知らないけど、そうだ。コイツの背格好には見覚えがある。俺は人の顔や特徴は忘れないからな」


カイトは実家の職業柄、幼い頃から人の名前や顔、そしてその特徴を忘れない様にする為の訓練を受けていた。

例え、ここが素通りの村であっても、客商売には客が付き物だからだ、と。


……もしかしたら、人懐っこいカイトが村を出て別の村や街で商売を初めてもやっていける様にと、カイトの両親が考えて教えていたのかもしれないが。


「薬を使った後、俺は何も説明をせずに立ち去った。それなのに、あれから何ヶ月も経った後に……どうしてコイツがにいる?」


ディアさんは自分を助けてくれた薬師を探していると言った。

と、言うことは、ディアさんが探している薬師というのは――――


「リア姉。コイツが村に来てからは、どうしてた?」


の私は姿が変わる。

ディアさんが夜の店に立ち入る事はなかったが、カイトはそれが聞きたいのだろう。


「ええと……念の為に、リリにに変身してもらって、大人のローズ昼間には寝ていて、夜にしか起きていない設定にしていたよ?」

「良かった。それなら誤魔化せそうかな……」

カイトがチラリとディアさんを見ると、

「それは、どうかな」

ディアさんはそう言いながら肩を竦めた。


「昼は薬屋なのに――夜に店の仕様が変わるのはどうしてだ?」

「っ……!?」

カイトが瞳を見開いた。


「内緒話のつもりだったなら……少し、迂闊だったな。エルフは耳が良いんだ」

ディアさんは苦笑いを浮かべながら、今まで決して脱がなかったマントのフードをパサリと後ろに落とした。


私とカイトは小声で話していたつもりだったのだが、どうやらすべてディアさんには筒抜けだったらしい。


……やっぱり。


フードを落としたディアさんは、金色の瞳と白金色の長い髪。類い稀なる美貌。

そして――長く尖った耳を持っていた。


「……その姿は、まさか……エルフ?」

カイトが小さく息を飲んだ。


カイトはディアさんがエルフだったことに衝撃を受けている様だ。

無理も無い……。何せ滅多に出逢えない貴重なエルフだ。

そんなエルフが私達の目の前にいるのだ。

表面上は冷静を装っている私でさえ、かなり動揺している。


以前に、たまたま見てしまったディアさんの姿から、彼がエルフであることを想定していたが……いざ現実で、その事実を突き付けられるのとではまた話が違う。


現にエルフ姿のディアさんを目の前にしても、私はまだ彼がエルフであることを受け止め切れてはいない。



「……私は、現エルフの王であるグランディアの息子のアグラディアと言う」

未だ衝撃の残る私達を真っ直ぐに見据えながら、ディアさんが口を開いた。


「私はあの時、同胞から命を狙われて……死ぬ運命だった。そんな私を助けたのは、この店の店主である、あなただった」


ディアさんがエルフで、エルフ王の息子……。そして、その同胞から……命を狙われた?


「……ちょっと待って下さい」

私は『ストップ』という意味を込めて、ディアさんに右手を掲げた。


情報が多過ぎて、許容範囲を越えてしまいそうだった。


「……ええと、まず、どうして薬を作ったのが私だと気付いたのですか……?」

頭を片手で押さえながら状況を整理していく。


ディアさんが村に来てから、私は薬を作らなかったはずだ。

なのに何故、こんな風に断定した言い方ができるのだろうか?


「それはあなたの事をずっと前から見ていたからだ」

「……え?」

ディアさんの答えに、頭の中が真っ白になった。


……いつから……見られていたの?


「あなたは魔女だ。それも、昼と夜とで姿が変わるという魔女の中でも稀有な【異端の魔女】だ」


……止めて。私の秘密を探らないで。

私の居場所を奪わないで……。


ギュッと拳を握り、唇を噛み締めると……

私の身体がフワッと温かいものに包み込まれた。


「……カイ……ト?」

「お前、何が目的だ?」

カイトは私をディアさんから完全に隠すように、包み込むように抱き締めながら、ディアさんを睨み付けた。

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ワルプルギスの夜 ゆなか @yunamayo

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