終章

火星

 「リン。リン。リン」

 呼び掛ける火星遺跡調査チームメンバーの声で、リンは目を覚ました。

 「ここはどこ?」

 「火星の遺跡がある崖の手前です」

 「火星の遺跡?」

 ぼうっとした頭脳で身を起こしたリンは、不自由な体に目を遣った。バイテク宇宙服を着用している。

 「私はどうしたの?」

 懐かしいメンバーの顔が覗き込んできた。

 「人工物を手にした瞬間、卒倒しました。少々赤血球が減少していますが、これくらいなら大丈夫ですよ」

 メンバーが微笑んだ。

 「……人工物……」

 思い出したリンは急いで手を見た。しっかりと手で人工物を握っていた。しげしげと見入るが、点滅はしていない。ただの人工物だ。

 「あの時に見た人工物とは違う」

 リンは夢を思い出すような感覚で、点滅する人工物を思い出していた。また、鬼のことも思い出し……全てを夢のこととして思い出した。

 ゆっくりと立ち上がったリンは、眼前にそびえ立つ壁のような崖を、万感の思いで見つめた。

 ――この埋もれた崖の中に横穴があり、そこに鬼の科学技術がある。私は必ず、日本国の島にある遺跡も見つけ出し、鬼の真実を地球の歴史に刻みつける。

 「リン。今日の調査はここまでにしましょう」

 メンバーがリンの肩を優しく叩いた。

 「そうね」

 頷いたリンだが、ふと、気掛かりなことを思い出した。

 「ここから地球に超光速バイテク通信はできる?」

 問い掛けに、怪訝顔になったメンバーだが、バイテク宇宙服に指示を出し、調べていった。

 「塵の嵐も当分は無いので、火星探査基地から経由できます」

 ――私の心が変われば、相手の心も変わる。そうだよね、サン。まだ間に合うよね。

 自分に言い聞かせたリンは指示を出した。

 「バイテク宇宙服。火星探査基地のメインバイテクコンピュータにアクセスし、カイBD492に超光速バイテク通信」

 ――母が亡くなったバイテク製品反対暴動は、私も半身を斬られたようで辛かった。でも、カイ。いいえ、父さんは、私のことなんかそっちのけで、人が変わったようにバイテク製品作りにのめり込むようになった。私はそんな父さんの気持ちが分らなかった。だから、父さんを嫌いになって遠ざけた。

 「アクセス完了。カイBD492に超光速バイテク通信」

 リンはヘルメットの前面に映った文字を確認した。

 「通話可能」

 映った文字を確認したリンは、深呼吸をした後、ゆっくりと名乗った。

 「リンです」

 「なんだ?」

 ぶっきらぼうな声が聞こえてきた。むっとしたリンだが感情を抑える。

 「父さん」

 「父さん? 俺に娘などいない」

 再びむっとしたリンだが堪えた。

 「火星遺跡調査に目処が付いたら、一旦地球に帰ろうと思っているの」

 「ふん」

 鼻の先であしらうカイに、リンは興味をそそるであろう言葉を投げ掛けた。

 「こっちでバイテク製品と言える代物を見つけたの。それを持って行くわ」

 「ふん?」

 食い付いてきたカイに、リンはにやりとした。と共に、大切なことを思い出した。

 「父さん。サンはいる?」

 「サン? なんでおまえがそれを知っているんだ?」

 リンはカイの反応で、サンがいることを確信した。そしてそれは、ミャムやトトやラティも存在することを確信させた。嬉しくて胸を躍らせたリンは、カイからの問いには答えず、勝手に超光速バイテク通信を終了させた。

 晴れ晴れしい顔付きになったリンは、僕らの星がある方角を見上げた。

 ――ナオキ。今もこれからも、ずっといつも一緒だよ。

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バイテクペット/バイテク社会 月菜にと @tukinanito

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