あなたと

ゆう作

あなたと

 拝啓 時下ますますご多幸のこととお慶び申し上げます。


 さて、何故私がこの様な手紙を送りつけて来たのかと、貴方は、不信の念を抱いている事かと存じます。いいえ、貴方なら、もう疾うに分かりきっている事だと、一笑に付されるのかもしれません。しかし、どうか、どうか嗤わないで下さい。私だって、情けないのです。この様な手段でしか、貴方に想いを申せない自分が、情けないのです。ですから、今一度、その手紙を破り捨てようとする手を止めて、私の想いに、優しく、触れて下さい。お願い申し上げます。


 思えば、貴方と私は、いつからこの様な仲になったのでしょうか。私には、その始まりが、闇に紛れて私を嘲笑っている様にしか思えないのです。


 何故、貴方は、そんなに私を、嗤うのですか? そんなに私を、貶すのですか? 私が貴方と、違うからですか? 貴方が正解で、私が間違いだからですか? いいえ、それは、私だって、考えました。考えましたよ、でも、どんなに考えても、どうやら、貴方が正解という事で、間違いないらしいのです。そして、その正解と違う私は、どうやら、間違いという事で、満場一致らしいのです。


 何故、私は、この様な、中途半端な、恐ろしい化け物に成り損ねた、気味の悪い生き物として、存在しているのでしょうか。


 ああ、この体に、角が生えていたら、どんなに良かったでしょう。この体に、翼が、牙が、鱗が生えていたら、どんなに生き易かったでしょう。そうしたら、一切を隠す必要など微塵も無く、全てを曝け出した上で、貴方と交わり、生きていけたでしょうに。


 しかし、実際に存在する私は、不自然な程に、貴方と見てくれが全く一緒なのです。どこを比べても、相違らしい点が、一つでも見つからないのです。


 それでも、その不気味なまでに完璧な体の中には、確かに、身の毛もよだつ様な、恐ろしい化け物が住み着いているのです。


 そして、その化け物は、どうやら、貴方に対する私の恐怖心だとか、羞恥心だとかを、禍々しい牙を連ねた口を大きく開けて、餌として飲み込み、成長しているらしいのです。


 そうなると、貴方に発覚するのも時間の問題で、私と交わるにつれて、そのずれは大きくなっていき、私は、逸脱の道を辿るより仕方がなくて、より一層、貴方は私を、嗤うのでしょう。


 それでも、ああ、なんて情けない。それでも、私はまだ、貴方と共存する道があるのではないかと、妄信しているのです。


 いつだったか、案の定、始まりは今でも思い出せないのですが、その前、そのずっとずっと前に、薄っすらとですが、確かに記憶しているのです。貴方と私が、手と手を取り合い、お互いに無い物を、お互いが補い合って、協力して生きている様を、確かに記憶しているのです。


 その頃は、良かった。私も、無い翼を羽ばたかせて、貴方と、化け物と一緒に、心の底から、笑っていました。


 それでも。それでも……。


 やはり、無理だったのです。所詮、人と化け物が交わるなど、そんな事があり得るのは、お伽話の中のみで、実際には、そんな話は、不可能なのです。


 今となっては、もう、まともな会話すら、貴方とは、成立しません。必ず、私が、どこか違うのです。


 そうして、ずれて、離れて、間違えて、また、ずれて、離れて、きっと、間違えるのです。


 そうして、貴方と私は、永遠に、交われないのです。


 それが、私は、どう表したら正解なのかは分かりませんが、とにかく、心が、締められるのです。それだけは、確かに分かります。


 苦しい。そうなのでしょうか。悲しい。そうなのでしょうか。


 最早、この意思が、私のものなのか、化け物のものなのか、貴方のものなのかも、検討が付かなくなってしまいました。


 そして、ああ、なんて醜い。それは、貴方と、あなたのせいだと、一瞬でも思ってしまいました。


 本当は、分かりきっているというのに。


 誠に、申し訳ございませんでした。


 それでは、時節柄くれぐれもご自愛ください。



 さようなら。

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