十王の受難

ドリルリーゼント

第1話・里見 喰羽




その日、天気予報は曇りと報じていたが、夜には雨がポツポツと降っていた。折り畳み傘を用意していた人はそれを差し、持っていなかった人は半ば諦めて夜道を行く。

どこかの雑居ビルの屋上で少年は傍の少女の頭を撫でつつ、道を行く人々を眺める。

少女は黒をベースに、赤や桃色で蝶の刺繍があしらわれた着物を着ており、少年は高校の制服を纏っている。

彼が選定者によって王戦の開催を宣言されてから一ヶ月。敵となる九人の王を探すことのみに専念した彼は、自分の能力と限られた人脈をフルに活用して六人まで探し出すことに成功していた。

「調べきれてないのは、死の王と漣の王の二人だけで間違いないかい、紅羽くれは

彼が少女に問いかけると、少女はただこくりと頷いた。

「そっか。死の王は名前からしてヤバみな雰囲気バチバチだから知っときたかったんだけど、まあ仕方ないか」

彼の名は里見さとみ喰羽くらは

限りなく見通す者、よろずを聞き及ぶ者、其は『傍観の王』。

「今日でちょうど一ヶ月。本格的に方針を決めようか。なんせ命がかかってるんだ。準備はしてもしたりない」

喰羽が紅羽にそう問いかけると、先ほどまで目算で十歳前後と思われる容姿だった少女が、みるみる内に年齢を重ね二十歳半ばにまでその姿が成長した。

「前から言っていたように、改変の王か相対の王に接触するのがベストだと思うわ」

紅羽は王ではない。しかし喰羽が例外的に得た三つ目の能力、『選定者の祝福』により生まれた、いわば喰羽の分身である。王の分身ということで、特例として発現した能力『王の尖兵グロウコントロール』により紅羽は自身の成長を操ることができる。しかし、思考力や身体能力などの機能は成長度合いに依存しており、複雑な会話や他者との戦闘を行うには相応の成長が必要になる。

「改変の王ならまだしも、なぜ相対の王が出てくるんだ? 」

「相対の王の妻の実家が、武器商をやってるのよ。それなりに大きいし、戦闘に不向きな私たちにとって味方にして損はない。問題があるとしたら」

「勝つ気があるってことだよなー」

「そーよ」

「改変の王の、その後の動向は? 」

「相変わらずコソコソと何かやってるわ。隠し方が上手いから何をやってるかまでは分からないわね」

「あの爺さん、イカツイ見た目に似合わず頭回るんだよなぁ」

「やっぱり、あの手しかないんじゃない? 」

紅羽の問いかけに、喰羽は少し唸る。

あの手。単純な戦法である。

「逃げるか〜」



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