【ЯGW2】27 m's to Re: covery World

新巻へもん

ボクはボクの務めを果たす

【ЯGW 3】その神、降臨

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889462704/episodes/1177354054889467557

の続きだよっ


==00:19==


「りりす……」


 ボクは変わり果てた神代りりすを見下ろして悲しみに暮れていた。折角、箱庭を逃れて平穏な日々を手に入れたと思っていたのに……。ボン・キュ・ボンの最高プロポーションを誇る肉体は今や魂の宿らないただのタンパク質の塊になっている。


==00:00==


 りりすが閉店後の後片付けをしている間、ボクは棚の上の定位置で寛いでいた。今日はゴールデンウィークの初日、遠くまで出かける金がない奴隷たちが癒しを求めて、ひっきりなしに店の扉を開ける。言葉が分からないだろうと、人はボクに様々なことを語りかける。秘めた思いを、憎いアイツへの恨みを、この世への絶望を。


 迷惑な話だ。猫は人の言葉ぐらい分かるっての。


 言葉を聞くのに疲れ果てたボクは、早く家に帰って、美味しいものを食べたいと思いながらまどろむ。違和感を感じたのはその時だった。箒を使って床の掃除をしていたりりすの背後の空間に闇がにじみ出る。それは人の形を作ると片手でりりすの口を塞ぐ。はっとしたりりすが顔を上げ、鏡に映る異形の者に驚いた表情をした。


 次の瞬間、りりすの胸を茨の蔓が貫く。異形の者は現れたときと同様に音もなく縮み一点の染みとなり消えた。床に倒れ伏したりりすは自らの血潮に浸りながら、震える指先で2つの記号を記す。


 この間、ボクは何もできなかった。身動きすることさえも、警告の鳴き声をあげることも。小さな息を一つ漏らすとりりすは息絶える。そして、ボクの体を何か分からない大きな力が抑えつけ、ボクは意識を失った。


==00:16==


 ボクは意識を取り戻す。状況は何も変わっていなかった。りりすは相変わらず死体のままだったし、店の中には、ボクにはなじみの深い鉄に似た臭いが充満していた。ただ、一つ違っていたのは、ボクがボクであることをはっきりと知覚していることだ。


 そこへ、キィ……とドアが軋み、一人の男が入ってきた。ボクの仇敵、今はすべてを失った哀れな男、只野人志。ボクは悟る。世界のルールが変更されたことを。休暇の日々は終わり、再び、あの過酷な戦いの日々が始まったことを。


 ボクの目の前で、只野は携帯のライトを点け、携帯が床に滑り落ちる。

「あ……ああ……っ。嘘だ……りりす……た――」

 そして、只野の姿がまばゆい光と共に消えたと思うと数瞬の後に只野の姿が現れる。


 どこかのロクデナシが廃物を再利用しようというのだろう。神の世界にもヒエラルキーは存在する。かつての神を別の神が利用する。珍しい話じゃない。ただ、この元神さまは劣化が進みすぎている。


 只野はりりすの遺体に近づくと右手の指が書き残した記号を見る。

「ジーダブリュー?」

 そして、朱に染まり横たわるりりすの顔に自らの顔を近づけていった。遺体を辱めようというのか? ダメだ、コイツ。人としての順応が進みすぎている。もはや、かつて神だった頃の片鱗すら残っていない。


 りりすは鏡の中に映った文字を書いたのに、左右が反転していることにすら気が付いていない。ボクは少しだけ力を使って、ドアを軋ませる。その音に驚いた只野はビクっと顔を上げるとあたふたとドアを開けて出て行った。


 ボクの脳裏に一つのヴィジョンが浮かぶ。


 事件が発覚し、只野が容疑者として逮捕される。現場に携帯を置いて行けば、現場にいたことは否定しようがない。しかも、当日にストーカー容疑で説諭済みだ。人生に絶望しての凶行と思われても仕方ない。ただ、いくら問い詰められてもことは説明できないだろう。


==00:27==


 ボクは再び、惨劇の現場に戻ってきた。葛藤が無かったわけじゃない。りりすにとってこのまま死を迎える方が幸せなんじゃないかとも思う。ただ、ボクは務めを果たさなくてはならない。


 世界の再創造の9日目に、りりすは10日目終了後に自らの記憶と力を消し去ると決めた。同時にボクの記憶と力も封印することも。でも、りりすが非業の死を遂げた場合のバックアップシステムも世界に組み込んでいた。


 ボクはりりすの正装の緋色のドレスと同色の4本のカーネーションをりりすの亡骸の上に置く。ボクは超越者マリエル。そして、りりすの契約者。世界を再起動するための力を今ここに開放しよう。


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