第2話

「ふわぁ⋯⋯」


朝の通学路。多くの学生達が集団を作り、一日の始まりを謳歌する時間。学校生活で数少なく感じる、青春の時間。

やれ昨晩のテレビはどうだっただの、動画がどうだっただの。ただの世間話なのに、どうして彼等は楽しそうに、そして輝いて見えるのだろう。


「よーっす!」

「うひぃっ!?」


突然背中を押された僕は、凡そ人が発しないであろう奇声を上げ、恐る恐ると後ろを振り返る。

やはりだ。いや、声で誰だか分かってたし、僕にこんなことをするのも彼女しかいないから分かりきってたことなんだけど⋯⋯。


「表壱、おはよっ!」

「うん、おはよう⋯⋯」


端正な顔立ちに、若干の茶色が入った髪を縛りもせずに靡かせる少女。彼女の名前は柏木 雫。幼稚園からずっと同じクラスの幼なじみだ。


「相変わらず暗い顔をしてるねぇ⋯⋯」

「嘘だろ、今日は人生で一番明るい顔の自信があるのに⋯⋯」

「少し眠たそうだよ、今日の表壱」

「確かに寝不足だった⋯⋯」

「やっぱり幼なじみの私に分からないことは無いねぇ」


朝から元気すぎる。多分僕が一徹決めた後のおかしなテンションの時よりもテンションが高い。多分僕が低すぎる。


「少年、大志を抱いて一日を過ごせよ! それじゃね!」

「あ、うん。気を付けて⋯⋯」


大志を抱け⋯⋯か。誰の言葉だっけ⋯⋯。



学校に着いた僕は、学校脇のイチョウの木に向かう。勿論、日記を掛けておく為だ。

昨日はこれを考えていたせいで寝るのが少し遅くなってしまった。


内容はこんな感じだ。


『初めまして、日記を見つけた者です。僕もあなたと似た思いを抱いていたので、つい拾ってしまいました。交換日記というのは初めてですが、これからどうぞよろしくお願い致します』


至って普通な、悪く言えば固すぎる文面で返した訳だけど、初めからグイグイ行くよりは多分印象はいい。

一人称を僕にしたのは、単純に僕の性別を男だと理解してもらうためだ。なんとなく、そっちの方が話しやすい気がしたから。


よく、恋愛漫画とか、こういう交換日記から恋が始まったりするものなんじゃないだろうか? 恋愛漫画、読んだことがないから分からないけど⋯⋯。

この日記を経て、友情ないしは恋情に繋がるかは分からないが、相手がどんな人であろうと友人にはなりたいものだ。


僕は家から持参した紐を蝶々結びにして、校舎から見えずらい位置に引っ掛けた。

丁度予鈴が鳴った。授業が始まる、急ごう。


「〜〜──⋯⋯」


今は数学の授業だ。ほかの授業に比べれば好きの部類に入るが、普通に難しくなってきていて理解するのが大変だ。特に数列、お前は許さないぞ。


4時間目が終わり、昼休みだ。今朝置いてきたノートがどうなったか見に行きたいが、もし出会ってしまったら相手に不快な思いをさせてしまうかもしれない。だから辞めた。


午後の授業はぼーっとしてしまうから困る。特に英語と古典が午後の授業に集中しているのが辛い。本当に不思議なくらい眠くなったりする。意識とか半分くらい無いし⋯⋯。

でも多分寝てはいない。先生に起こされないから。午後の僕は半目とか開けて耐えているのだろうか⋯⋯少し見てみたい気はする。


もう放課後だ。気付いたら6時間目のチャイムが鳴っていた。

帰り際、凄いノートを見たくなったけど、辞めた。明日の学校の楽しみを減らしたくなかったから。


「お、表壱! もう帰り?」

「あ、うん。部活入ってないから⋯⋯」


雫だ。雫はテニス部に入部していて、僕が帰る時よく見かける。爛漫な笑顔が夕焼けに照らされて眩しい。目を背ける程に。


「じゃあ⋯⋯」

「連れないなぁ、また明日ねー!」


本当に、連れない性格をしていると思う。

家に着く頃には、太陽が沈んでいた。一番星はもう見える。月も薄いけれど出てきている。


夜空はもう暗い。なのに僕は、また目を背けた。この景色すら、僕には眩しかったから⋯⋯。

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知らぬあなたと交換日記 @satsumaimoo

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