【RGW5】リレー小説 グランドフィナーレ

越智屋ノマ@ネトコン入賞2024

グランドフィナーレ

創世記1章1-8節

1日目 神は「光あれ」と仰せになり、天と地を創られた。

2日目 神は空を創られた。

3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物を生えさせられた。

4日目 神は太陽と月と星を創られた。

5日目 神は魚と鳥を創られた。

6日目 神は獣と家畜を創り、神に似せた人を創られた。

7日目 神はお休みになった。


 * * *


 GWゴールデン・ウィーク――それは、神の“天地創造の一週間”の再来をもたらす、禁断の聖遺物だ。


 『天地創造の一週間』とはすなわち、旧約聖書・創世記に記される神の御業である。

 虚無の闇から世界を創造した神の御業――世界をリセットし、自分の願い通りに世界を作り直すことが出来る。


 黄金のカギの形をした、輝けるエーテル集合体、それがGWゴールデン・ウィークだ。



 私はGWを入手すべく、闇組織awアフターウォーの最奥部へ突き進んでいた。


「ふんっ、死にたがり共がうじゃうじゃと……」


 神の代行者である私が覚醒した今、awなど烏合の衆。勝てるわけのない戦いに、無為に命を散らす雑魚。

 

 愚かで。哀れだ。実に虚しい。


 聖遺物GWは幾多の不幸が重なり闇組織アフターウォーに奪われることとなったが、奴らが持っても意味がない。


 神自身か私しか、GWの『天地創造の一週間』を発動させることはできないのだ。


 だからawは、私に接触を図ったのだ。

 かつて私は、awを利用して、GWを手に入れようとした。そして神を出し抜いて、こんなくだらない世界、リセットしてやろうと願った。


 長い道のりだった。

 ようやく、叶う。そのときが来た――


 1000段を超える無限階段を上り切ったその先、awの塔の頂点。

 カギ型の黄金。

 GWゴールデン・ウィーク


 私の眼には涙があふれていた。

 これだ!

 私はようやく、神の呪縛から逃れる。

 

 つかみ取る。

 黄金の、GWを――



 そのとき。



  ずしゅぅ、



 と刺突音。喉せりあがる熱い液体。焼く痛み。


 私の胸を貫く、数百本のいばらのつる。



「くだらないマネをしたものだな、×××」


 ×××……私の名を呼ぶ、その声は。


 神だった。


 人と同じ身の丈の、しかし人を凌駕する気を纏うその男は神。

 私を創った、神である。


「……ぐ、っ、……なぜ」


 なぜ、お前が生きている。私は神を、確かに殺したはずだった。

 それがなぜ?


「第四次元さ」


 神は静かにそう告げた。


「×××、君にはきちんと告げただろう? 君のために、第四次元の数値を戻しておいてやると。こういうことさ。君は私を、きちんと殺せていなかった」


 第四、次元……

 それは、この世の向こう側。神と私が、本来、ともに住まう場所。

 

「実次元で私を殺したところで、無意味だ。第四次元が私を生かす」


 ……どうやら私は、とんでもないミスをしていたようだ。


 血を吐き地に伏す私を見下ろし、神は静かな笑みを刻んだ。


「君は私の骨から生まれた、私の片割れ。私を裏切り、世界を再構築か。とても愛らしい考えだ」


 黙れ……

 言葉が、吐けない。吐けるのは、血だけ。


 あと一歩、だと思っていたのに。


「×××。私は君を、とても愛しく思っている。もう一度、戻っておいで、我が箱庭へ」


 黙れ。

 

 あぁ。


 私は結局最期まで、神の枷から逃れられなかった。


 あふれた涙と血が混じり、意識が、遠のく。

 遠のく。



 

 そのとき――





『リリス!! あきらめちゃ、ダメにゅあ~~~!!!』



 ふわりと飛び込む血交じりの白い毛玉。

 ……マリー?


 飼い猫のマリーだ。

 先のawとの戦闘で失った、私の愛猫。


 どうして、おまえが?


『しっかりするにゅあ! リリス! 今こそ真の力を、覚醒させるのにゅあ! ぼくと契約して、魔法少女になるのにゅあ!!』


 マリーの血交じりの白い毛並み……違う。

 猫としての小柄な体が、いまや激しく赤い閃光を放っているのだ。


『リリス、君の仮覚醒を経て、ぼくも覚醒したのにゅあ。ぼくはマリー……いや、緋天使ひてんしマリエル。君とともに神の箱庭を脱し、ともに生きると誓ったマリエルにゅあ。思い出して!!』



 それは記憶の奔流だった。


 箱庭。

 神の箱庭。


 愛玩動物のように飼われ続けた無知なる少女。……それが私。名は、リリス。


 緋天使マリエル。

 神の忠実なる下僕。

 しかし彼は、私に知恵を与えた。

 生きる喜びを、識る喜びを与えてしまった。

 

 私はマリエルとともに神に背き、長い長い旅を続けた。


 神の力は、崇拝する人間の数に相関する。

 神秘を科学が凌駕する現代、神にはかつてほどの威光はない。

 私たちは神から、逃れ続けた。


 私たちは名を変え。姿を変え。幾度も生まれ変わり。

 今世では記憶も薄らいだまま一人の女と飼い猫として、静かな生をまっとうしようと願っていた。

 

『リリス! リレー小説を書いていた皆さんは、君のことをオッサンキャラだと誤認してるにゅあ! 失礼にゅあね、こんなにボンキュボンちゃんな17歳なのにゅい!』


 ……それはべつに、どうでもいい。


 話を戻そう。

 私たちの静かな生を、闇組織awが打ち砕いたのだ。

 鮮烈な運命をよみがえらせ、awは私に神殺しをささやいた。

 

 私とマリエルの存在は神の知るところとなり、そして神とawと私たちの、三つ巴の闘いが繰り広げられていた。


『さあリリス! ぼくと契約を。今こそ魔法少女としての真の力を、いま、ここに!』


 わかっているよマリエル。

 おまえと私は、いつだって。


「くっ、超越者マリエルめ、こざかしいマネを――!」

 

 神の茨がマリエルに迫る。

 させない!


 私の血とマリエルの閃光が絡み合う。幾重の血のすじ、光のみち


 私はマリエルと融合し、魔法少女として本来の力を覚醒させた。

 四枚の羽根を背に宿し、緋色のドレスを纏った少女。

 それが私。

 

「神! 私はお前の言う通りにはならない。そのGWを、よこしなさい!」


「させぬ」


 神は握りしめたGWに神力を注ぎ、ついにGWを覚醒させてしまった。


「リリス、貴様の望み通り世界をリセットしてやろう。ただし私の望み通りの、な。何度でも同じ世界を繰り返す。貴様は再び箱庭に飼われる。マリエルは、今度は即座に殺してしまおう。新世界の始まりだ」


 まばゆい光。

 創世記に描かれる、世界構築の奔流。

 走馬燈を見るかのように、めまぐるしく展開される神の7日間……

 7日目の映像が終結し、世界が神の元に収束してゆく……


 だめなの? 

 私は結局、魔法少女になったところで、なにもできずに神に囚われるの?

 

『負けにゅあいで、リリス!』


 背中の羽根に宿ったマリエルが、叫んだ。


『時代は変わったのにゅあ! 神の古臭い因習にとらわれないで、君が続きの創世記を描くのにゅあ! 大丈夫、いまどきのGWゴールデンウイークは10日もあるんだにゅあ!』


 続きの創世記?


『大丈夫、君は神の片割れ、代行者なのにゅあ!』


 何が何だかわからないけれど、分かった。

 やってみる!


 私は神に飛び掛かり、脳天の頭髪を引きちぎって肉弾戦を仕掛けた。


 ぎゃあ、と醜く叫ぶ神の横っ腹を蹴り飛ばし、強奪。


 聖遺物・GWを強奪した!


 ――お願い、GW。


 カギの形をした聖遺物ゴールデン・ウィークを握りしめ、私はすべての魔力を注ぐ――

 

 私に自由を。

 

 神の束縛から離れた自由を、ちょうだい。どうか――



*******************************************************************************

8日目 神の代行者は神を否定し、神を人間たらしめた。

9日目 神の代行者は、10日目終了後に自らの記憶と力を消し去ると決めた。

10日目 神の代行者は――――

*******************************************************************************



 * * *





「にゅあ~」

 甘ったるい声で鳴く、愛猫のマリー。

 頬を舐められ、目を覚ます。


 私は自分のベッドで眠っていた。


 殺風景なワンルームマンション。


「おはよ。マリー」

「にゅあ~」


 長い長い、夢のあと。

 細かいコトは、あんまり覚えていない。


 でも、長く煩わしかった何かから、ようやく解放されたようなサッパリ感がある。


「ま、いっか」


 わたしは冷蔵庫から、昨日スーパーで買っておいたアレを取り出した。


「にゅあ!!?」


 マリーが嬉しそうにぴょこんと跳ねる。


「マリーにごちそうだよ。お刺身」 

「にゅあ~」


 すり寄ってくるマリーを抱き上げ、ぎゅっとした。


 マリーと一緒だと、私は幸せ。


「おいしいもの、いっぱい食べさせてあげるって約束したもんね」


 私はマリーと、自由気ままに生きている。

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