スマホ検定準2級
盛田雄介
第1話 スマホ検定準2級
今日は待ちに待ったスマホ検定準2級の試験日。この日のため、私は2歳の頃からスマホ操作の英才教育を受けてきた。
両親は、私が大きな声で泣いたり、騒いだりするとスマホを手渡して操作練習をさせた。幼い頃の私は物覚えが良くすぐにネットでの動画視聴方法を覚えた。
私が好きな動画は都会のど真ん中でサバイバルをする小さなイモムシのアニメだ。このアニメを見る時は周囲に気が散らず、静かにスマホ操作に集中していた。
そんな私の様子を見て両親は「この子はスマホの天才だから手がかからないわ。将来安泰ね」と大喜びしてショッピングを楽しんでいた。
それからも、アプリのダウンロードやゲームなどを学んでいき、年長組に入る頃にはスマホを買い与えられた。
自分のスマホを持ってからは、幼稚園で遊んでいる時も外に出かけている時もスマホをずっと操作しており、卒園前には電卓での計算、写真の編集、SNSの操作などまで完璧にマスターしていた。両親は、いよいよ私がスマホの天才だということを確信し、小学1年生にある検定を受験してみないかと提案してきた。
「かおりちゃんは本当にスマホの天才ね。今度、スマホ検定受けてみないかな」
「いいよ。じゃあ、やってみる」これを機に更にスマホを触る時間が増えた。
毎朝、起床と同時にスマホを片手に1日のスケジュールを確認したり、ごはん中も動画やゲームをして過ごす。登校中はもちろん、授業中も答えが分からなければ、すぐにスマホで検索しテストでも100点しかとったことない。
学校が終わると、近所の公民館で開いている「スマホ教室」に毎日通い、中学生や高校生に混じって3時間のスマホに励んだ。
そして、2学期初めに私はスマホ検定を受験した。スマホ検定は8級~1級まであり、初めての検定は母と相談し腕試しで5級から受験してみた。
結果は当然の合格。しかし、ただの合格では無かった。私は中学生レベル内容の5級を全国の受験者の中で1位の順位で合格したのだった。
合格発表から自宅には毎日、多くの報道陣が来るようになった。
「かおりちゃん、最少年で全国1位の結果をもらってどう思ったかな」
「とても、うれしいです」
「次の目標は何かな」
「次は飛び級して準2級を目指したいと思います」照れながら答える私を見て母が口を開いた。
「準2級って高校生レベルじゃないですか。本当に大丈夫ですか」
「はい。娘ならできると思います。受験は1年に1回しかないので、来年は準2級を目指します」私は多くのカメラに囲まれて嬉しそうに受け答える母の姿がすごく好きだった。
このインタビューを境に1年間、更なる時間を準2級合格の為に費やし本日、眼鏡をかけて試験会場で開始の合図を待っていた。
「では、受験生の皆さん、スマホを机の上に置いてください」試験の合図で総勢100名の受験者が一斉にスマホをスタンバイした。
「準2級の試験は、早押し問題です。全100問のお題を口頭で伝えるので、スマホを使って答えを誰よりも早く導きだして、挙手してください。正解の方には点数を差し上げます。5点取れたら、合格とします。」つまり、合格者は多くても20人のみの狭き道である。
試験官は説明を終えると、教卓の前に立ち、教室中を見渡して1問目の紙を広げた。
「では、開始します1問目です。願いましはー」試験官の合図と共に全員ロック画面を解除しホーム画面にして回答の準備をした。
「10529+10545+148520+1639+41=」1問目はシンプルな計算問題だった。過去問の傾向から地図検索問題が来ると思っていた私は不意を突かれてスタートダッシュを隣の席の大学生に取られた。
「171274です」
「正解です。1点差し上げます」大学生が小さくガッツポーズをして私に向かってにやりと笑ってきたので、お返しにべーと舌を出してやった。
「では、次の問題です。願いましてはー」次は負けたくない。特にこいつには絶対。
「パズルゲーム『パズリュウ』のアプリをインストールし、3ステージまでクリアしてください」
かおりは周囲の受験者と全く同じタイミングで「パズリュウ」をインストールしたが、パズル操作は指の長い大人達の方が有利であり1位でのクリアは行えなかった。
その後も次々に出題され答えはわかったが、かおりは周囲のスピードについていけず、点数獲得は叶わず、ついに99問目の問題となった。
隣の大学生の持ち点は4点。次の問題で合否が決定する。
「君、次の問題はスルーしてくれよ。どうせ、今年の合格は出来ないだろ」大学生は額の汗を拭いながら、かおりに声をかけた。
「私より、ずっと大人のくせに恥ずかしくないの。私は合格できないけど、せめて1点でも獲得するわ」声を掛けられイラついたが、おかげで消えていた闘志に再び火が点いた。
「では、最後の問題です。願えましてはー」かおりは、試験官の声に耳を傾け、今まで勉強してきたことを一気に思い返しスマホを操作した。
「おだ…」試験官はお題を読み始めて、間もなく出題を止めた。教室中の受験者は何事かと思い試験官に目を向けたが、すぐに視線はかおりに移った。
「はい」かおりはスマホを右手に持ち、左手を誰よりも天高く掲げている。試験官は驚きを押し殺しながら、かおりに回答権を与えた。
「では、答えをどうぞ」かおりは、立ち上がり息を整えてスマホに目を向け口を開いた。
「土田御前です」かおりは賭けた。過去問や今までの出題の傾向をスマホでデータ化し、最後の問題を予測し答えをスマホで抽出したのだ。不合格が確定している自分が一矢報いる為には、もうこれしかない。
試験官は震える唇を噛みしめながら、今にも泣きだしそうなかおりにゆっくりと指を差した。
「正解。1点です」かおりは、試験の言葉に膝から崩れ落ち、その場で号泣した。当然であろう。自分よりも1周り以上も年上の集団の中でたった1人で戦っていたのだから。
かおりの涙は止まることなく、そのまま会場を後にした。
外で待機していたメディアは、不合格ながらも大健闘したかおりを連日のニュースで称えた。
「この子はすごいよ。まだ小学2年生で大人に混じって準2級の試験を受けて1点取れたんでしょ。私も準2級もってますが、この試験のプレッシャーは凄まじいもんな」コメンテーターの大蔵アナと坪田教授の2人は関心しきっていた。
「やっぱり、親の教育が良いんですよ。赤ちゃんの頃から、スマホを持たせてたらしい」
「なるほど。だから、こんなに小さくてもスマホをここまで使いこなせるのか。素晴らしい両親だな。皆も小さい頃からスマホを持たすと良いらしいよ」大蔵アナはカメラに向かって目じりのシワをいっぱい引き寄せた笑顔で語り掛けた。
「このスマホ時代で求められる事は、頭がいいとか暗記力が良いとかじゃない。だって、分からないことがあれば、ネットに全て答えがあるもんね」
「確かにそれだな。しかも、スマホには何でも保存できるから記憶力もいらねーな」
「つまり、現代は頭の良さよりもスマホをいかに素早く使いこなすかが重要なんだよ」2人は笑いながら、次の話題に移った。
「えー、続いてのニュースです。政府の調査では日本人の平均IQが80台を大きく下回ったらしいですが、スマホがあるので、大丈夫らしいですよ。もし、対策とか知りたい方は検索してくださいねー。多分、答えが出ると思いまーす」
スマホ検定準2級 盛田雄介 @moritayu
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