第6話 暗い森

森の中に足を踏み入れたヒエイはそこで肌に寒気を感じた、幽世と言葉がよぎる。

「相変わらず薄気味悪い森だぜ」

オスカが愚痴を一つと唾を吐く、確かにこの森は目覚めた森と何かが違う。

言い得ぬ不安の様なものが胸の内に燻るのを感じる、あの古き祠とは対極にある何かを肌身に感じつつ足を進めた。


一団は縦列に並び長槍をいつでも振るえるように持ち構えてしばらく進む。

進む道は旧く幾筋もの轍は長い間通る荷台もあまり無いせいか、跡に草木がうっすら生えていた、暗い森の中は獣の息づく気配はおろか小鳥の鳴き声一つ感じられない。


「小さな港町がこの道の先にあってよ、昔はこの道を何台もの荷車を曳いた商人連中がせこせこと通ってたって話だがよ」

オスカがぼやく様に口を開いた。

「今じゃ大周りでも整備された街道を通る方が安全ってこって、この有様よ」

「それでも通る者は居るのであろう」

「勿論、まぁ大抵は碌な荷を積んじゃいないだろうがな」

「人目を気にしてまともには運べない品、とか」

オスカがにやけた顔になってヒエイを見た。

「さあて、俺らは亜人の首を狩るのが仕事だ、首突っ込んで落とされる方じゃねぇ」

「なるほど、所で今回の亜人狩り依頼の出所はどこからなのかね」

オスカは腰の長剣を引き抜く、武骨な作りの剣がすらりと抜き放たれた。

「言っただろう、首を落とされる方じゃなくて落とす方が仕事だってよ」

「うむ、その様だな」

ヒエイは刀を抜き放つとその勢いのまま振るった。

「円陣構え!! 上からくるぞ気をつけろ!!」

オスカが叫び剣を振るう、ヒエイは抜き打ちで襲ってきた子供程の背丈の小鬼の首を切断して跳ね飛ばした。

兵達は円陣を組む様に並び槍を構え小鬼の群れに相対した。

「オスカよ、こいつらが言ってたゴブリンとか言う餓鬼か」

「あぁ、餓鬼がなんだか知らねぇがそうだよ」

「ずいぶんと数が多いな」

ヒエイが言う通り、石を投げれば小鬼に当たる状況と言っていいだろう、その間にもばらばらと飛びだしてきた小鬼にそれぞれが突いて叩いて切り捨ててと忙しない。

「こいつは報告以上だ、森を焼いた方が早えなこりゃ」

「冗談であろう、その方が面倒だぞ」

「そうだよなぁ一旦退いて森を出る、殿は任せていいか、ヒエイ」

「一番槍から殿か、大役だが任せろ」

「ようし野郎共、ケツまくって来た方に突っ込め!!」

オスカが叫ぶと十人の兵は一斉に叫び元来た方に駆けだした、後ろに回り込んでいたゴブリン共は叫びにあてられて腰が引けた所に兵達の槍が突かれ、蹴られ、体当たりで弾き飛ばされた。

「いやはや良い兵達だ、と言ってばかりもいられんか」

ヒエイも肩に刀を担ぎ兵達の後ろについて走った、時折後ろを振り返り突出してきた小鬼を切り伏せ、脱落しそうな兵に手を貸しと殿を務めた。

四半刻走り続けただろうか森の切れ目が見えた、森から次々と兵達が抜け出てオスカとヒエイは最後に森から出た。

兵達が肩で息を切らし呼吸を整えようとする中、オスカとヒエイは追手が無いか構えを解かずに周囲を探る。

どうやらゴブリン共は途中で追うのを諦めた様だ、見える範囲では気配も感じられず二人は鞘に武器を収めた。

「亜人狩りとは何時もこの様なものなのか」

「馬鹿言うんじゃねぇよ、普通は精々十数匹くらい狩るか、奴らのねぐらをぶっ壊して使えなくするかだ」

「ほう、すると今回は大当たりか」

オスカは口を開いたままヒエイを見た、深呼吸を一つして息を整える。

「そうだな大当たりだよ、疫病神にでも好かれたのかって位にな」

ヒエイは頬を掻いて何とも言えない顔をする。

「いや、恐らく戦神の加護の一つだなこれは」

「救いようが無ぇ、なんで手助けじゃなくて面倒増やしてんだよ神様」

「そっちの方が面白そうだから、とか」

「やっぱ戦神無いわ、風と盗人の神が最高だわ」

オスカが深い息とすると風と盗人の神に祈った。

「頼むからそういう事は聞こえない所で言ってくれると助かるのだが」

ヒエイは頭を抱えてオスカに言った。

「あぁアンタ戦神の信徒だっけ、信心深いんだな」

「戦神の偉大さは身をもって知っているからそのなんだ、祟られても困る」

「そこまで言うなら取り消すわ、戦神様すんません」

オスカが詫びるとヒエイは胸に手を当て息を吐いた。

「これからどうするのだ、オスカ」

「この程度の手勢じゃどうにもなんねぇ、一度戻って旦那に報告だな」

「今からだと日が落ちる前には戻れそうだな」

「野営の準備もしてるが、こりゃできるだけ早く戻った方がいいな」

オスカが兵達を見計らって駆け足で戻る様指示する、うえぇと嫌そうな声が聞こえるが反対する者は一人としていなかった。

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異世界サムライ転生記 粋杉候 @ikisugisoro

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