第5話 亜人
「亜人とは何の事だ」
ブロルとオスカは顔を見合わせた。
「旦那、ホントにコイツ大丈夫ですかね」
「私も少し不安になった」
ヒエンは不機嫌に腕を組んで二人を見る。
「そう怖い顔しなさんな、そういや遠くから来たって言ってたか、じゃあ言い方が違うのかも知んねえな」
「そうだな、そういう事もあるだろうヒエン殿、亜人とはな」
ブロルが亜人についてザックリと話しを始めた。
曰く、人に似て人と違う種族を一括りに亜人と呼ぶ、その中でも亜人狩りと言えばここでは主に手に負えない小鬼や豚鬼など害しかない連中を狩る事を言う。
キナ臭いと言っていた森の民も一応、亜人の種族になるがそれを連中に言うとその場で決闘沙汰になるから表立って言う事はまずない。
「ほう、小鬼に豚鬼と魑魅魍魎が跋扈するとは俗界とは魔境秘境の類か」
ヒエイが我が意を得たりと頷くとブロルとオスカは顔を突き合わせて囁きあった。
(やっぱなんか変だなコイツ)
(この際だ、腕さえ問題無ければ後は気にするな)
大げさにゲフンゲフンとヒエイは咳をした。
「理解して貰えた様で何より、では改めて受けて頂けるかな」
「そうだな、では給金に関してだが」
ヒエイはいくつか条件を確認してから仕事を受けた、給金は週毎に賄う事と決まり途中で出立する事があれば日毎に換算して払うとした。
契約の際に手付金として先に銅貨の入った小袋を渡された、それが高いのか安いのかも知らぬヒエイには正直言えば雨露凌げる宿と飯、それと武具の手入れに鍛冶場が使える方がありがたかった。
身分はブロル付きの傭兵として団に属さず直接の雇用となった、これはオスカと同じ扱いと言われた。どうやらここの守備兵達は元々この領主の配下でブロルは雇われた形となっているらしい。
元が傭兵のブロルは自分の手勢を守備兵達に紛れさせて指揮を確立させている所は傭兵の面目躍如でそつがない。
食い扶持のケツ持ちが領主だろうがブロルだろうが、ヒエイにとってはどちらでも構いはしないのであった。
一所定まれば後は懸命に勤めるのみとヒエイは次の日から動いた。
どうやらこの場所は街道に面しているらしく、決まった商人が荷馬車に売り物満載で頻繁に出入りしている、ヒエイは世間話と出入りの商人にいろいろと尋ねると商人に変な顔をされて名を覚えられた、次に出城と改めた陣中を見て回ったりする。
その翌日にはブロルからさっそくとばかりに亜人狩りを頼まれた。
「亜人が出た、さっそくヒエイ殿にはオスカも同行で狩りに出てもらいたい」
「構わんが、お目付け役かね」
「それもあるが、亜人狩り初めてなら手慣れた者を付けた方が良いとも思ってね」
ブロスは素知らぬ顔で言ってのけた。
「一理ある、ではオスカ殿に亜人狩りのご教授願おう」
「なんか尻がムズ痒いぜ」
オスカははにかんで尻を掻いた。
翌夜明けから身支度に半刻程使い朝方に出立することになった、守備兵団から長槍を担いだ徒歩の兵が十人、そしてヒエイとオスカがそれぞれ戦支度で出そろった。
指揮役はオスカがなりヒエイは切り込み役を買って出た。
「悪いねぇ、面倒役を頼んじまって」
「何、最初の仕事で一番槍の誉を貰えるのだ、面倒などと思うものかね」
オスカの言葉にヒエイは嬉々として答えた。
「アンタ変な奴だが旦那の言う通り出来た人だねぇ」
オスカはヒエイの肩を叩き笑った。
出城から街道に一度出て森へ向かう分かれ道に差し掛かる、そこで一団は足を止めて小休止した、ヒエイにオスカが近づいて森を指さす。
「ヒエイ、この先に見える森が連中の住処だ、森に近づいた途端に襲ってくる事もあるから気をつけな」
「山賊と変わらんのだな」
オスカが渋い顔で頭を振る。
「いや山賊相手の方が面倒だがな、なにしろ亜人共は見境が無いから目についた獲物は総浚いよ」
「商人連中は堪らんな」
「おうよ、だから護衛仕事が無くなる事がねぇし、そういった荒事を生業にする連中もいるって事よ」
「街道巡視員として騎馬の小隊が回っていると聞いたが」
「馬鹿だなアンタ、都合よく襲われてる所に連中と出くわすよりそのまま襲われるヤツの方が多いわ、それに連中が守るのは手前の息がかかった奴らだけ、その辺の人間は襲われたって通り抜けられるだけだよ」
「どこの世も世知辛いのは変わらんか」
「この辺はまだマシだぜ俺らが居るからな、つまりここの領主は馬鹿だって事だが」
「話を聞くに名君ではないのか、民を安んじ税を抑え市場が良く賑わうと聞いたが」
「そらな、守られてる連中からすりゃいい領主だが、ちょっと不作やらが起きれば途端にダメになると思うぜ、馬鹿だから」
「そうかその手の馬鹿か、覚えがある。長く持つよう祈るしか無いな」
「そうだな、長く細く食いっぱぐれが無いよう旦那も頑張ってるし、神様頼むぜ」
オスカがその場で簡単な祈りの仕草をして目を閉じた、直ぐに祈りを終えると大声を上げて休息の終わりを告げた。
「野郎共、森の中に入るぞ、小便漏らさないように始末は済んだだろうな」
オスカが怒鳴ると兵達も声を上げて叫び返した。
「よぅし、前進」
こうして十二人の男達は暗き森へと足を踏み入れた。
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