心に秘めて

マドロック

宣戦布告


「イェーイ!令和おめでとうー!」

「フュー!」


 令和おめでとう、私の名前は玉枝 早希さき別に苗字は覚えなくていいよ、早希って気軽に呼んでね。

 いきなり本題に入るんだけど、実は私のクラスで新しい年号を迎える日に夜に集まってとにかくドンチャン騒ぎをするっていう会を開催してるからこんな風にみんな盛り上がってるんだよね。


「平成バイバーイ!」


 クラスの陽キャラの男子が盛り上げてくれるので、こういうとき女子って結構楽だよね。


 しかし、クラスのみんなが盛り上がっている中、顔を俯かせて、食事にも全然手をつけていない女の子がいる。

 その子の名前は佐々木 佳奈かなこの子も苗字は特に覚えなくていいよ。私が呼ぶときは基本的に佳奈だから。


 なんで佳奈が全然楽しそうにしてないのか、この中で知っているのは私だけだと思う。私は中学から高校の一年の今までずっと佳奈の事が好きで目で追っていたから。佳奈と連絡先交換した時とかとっても嬉しかったし、佳奈に親友だって言われたときは佳奈の特別な1人になれたんだなって思って1人で自分を良くやったと褒めたと同時に親友じゃどうやっても恋人には駆け上がらないということも知って自分を慰めたこともある。

 そんな私だから佳奈が今この瞬間、そしてこれからも新しい時代を事だってわかってる。


「よーし、じゃあ二次会と洒落込もうぜ!」

「イェーイ!」

「あ、あの」


 みんなが二次会の流れに持っていこうとした時に、佳奈が手を挙げた


「ちょっと熱っぽくて頭痛いから抜けていいかな?」

「えぇー!カナカナがいないと寂しいよ〜」

「えぇー!カナちゃん帰っちゃうの?」


 同じクラスの女子達がそれぞれ悲しむ仕草を見せて佳奈の腰を抱きしめて逃さないようにしてる。確かに佳奈は、スポーツもできて勉強もできるし、謙虚でみんなに優しいからモテるのわかるし、騒ぐときには騒ぐ子だから、結構放課後遊ぶ方でもあるから女子にも人気がある。まぁ私は佳奈のひっつき虫ですがね。


「そっかー、じゃあ二次会は自由参加にしよう」

「いいね、じゃあそうしよ!」


 気の利いた男子がそう言ったので、私はその意見にすぐ同意した。


「しょうがないなぁー」

「じゃあ私もかーえろ」


 そう言いそれぞれが解散の意を示し出したので私は佳奈の方に行く。


「佳奈?熱っ嘘でしょ?」

「うん、よくわかったね早希」


 佳奈は少し意地悪な笑みを浮かべてすぐまたなにかを考えている。


「じゃあ、早希またね」

「うん、ゴールデンウィーク明けにね。ちゃんと学校に来てね」

「うん」


 佳奈は返事をした後、足早にそこを去って行く。その後向かう場所は私は知っている。


「じゃ、私も帰るねー」

「えー、早希も帰るのー」

「じゃあ私も帰るわー」


 こういうのって1人が帰るって言うとみんな帰るって言い始めるよね。


 私はみんな帰る帰ると言っている間に先に帰った佳奈の後を追いかける。

 ストーカーとか言わないでね!後を追うって言ったって佳奈が行く場所が分かってるから行くだけだけだからね!別にストーカーじゃないからね!


 しばらく歩くとさっきまでの都会の街が嘘のようになにもないとこに着く。そしてこの場所にはがある。


 いた、佳奈が止まっている。まぁそこだろうなぁと思っていた。花束まで途中で買ってやがったのか。


「こんばんわ、藍那あいなこんな時間にごめんね、高校のクラスの人達になんか食事会に誘われて行ってたんだ」

「藍那はこの時間までなにしてた?本でも読んでた?本好きだもんね」

「あ、知ってる?なんか今日平成が終わったんだよ、令和っていう新しい時代になったんだ」

「時代は変わっていくんだね、なんか悲しいんだ、クラスの友達がね、そんなつもりないとおもんだけど、平成バイバーイって言ってたんだ。」

「それがなんか藍那にお別れを言ってるみたいでさ、藍那のいた時代を捨てるかのようにさ!」


 私はブロック塀の影に隠れているので、佳奈の表情が読めないけど何を言っているかは分かるし、声がだんだん震えているのが分かる。


「ねぇ、嫌だよ!藍那のいない時代に行くなんて、藍那がいなきゃ私の人生楽しくないよ!あぁぁぁ!」


 聞こえる、佳奈の絶叫が、ここで何回聞いたことか、何回抱きしめてあげようとしたことか、でも今の佳奈はそんなことを望んでいないと思う。私なんかより藍那が良いはずだから。


「ぐす、ごめんね、急に来てこんなこと言われたら困るよね、私もそっちに行こうかなぁ」

「ッ!」


 私は今にも足を踏み出して佳奈を抱きしめようとしたが体が動いてくれなかった。

 好きでもない人に自分の望みの邪魔をされたくないと私の体の本能が止めたのだろうか。


「いや、やっぱりまだ待ってて」


 私は黙って耳を澄ます。


「こんな私でも、藍那がいなくて心が折れてる私を支えてくれて、いかないでくれって言ってくれた。人がいるんだ」

「私を必要としてくれてるのか分からないけど、それでも藍那が居ない今の私の居場所は、あの娘の隣しかないんだ」

「もし、藍那のそば行くと決めたら、その娘にちゃんと別れを言ってからにするね。こんなこと言われても困るよね、あはは」


 私はまた体が動かなかった。

 佳奈が危険なことを考えていたことは薄々気づいていた。ニュースを見たときも、何か寂しそうな表情をしていた。普通にニュース見るだけであんな表情になるわけがなかったからだ。しかもその時ボソッと「私も気持ち分かるなぁ」と言ったのを私は覚えている。その後佳奈は誤魔化していたが、私は分かる。佳奈の事情も知り尽くしていたから。


「じゃあ、今日はもう帰るね。また明日来るよ。おやすみ藍那」


 佳奈はそう言い私がいる方とは違う出口から出て行った。

 私は佳奈が完全に出て行ったのを見て、先程まで佳奈がいた場所に行く。


「こんばんわ、藍那さん」


 私は言う。返事が返って来ないのも知っている。相手も返せないから。


「私はやっぱり引けない。佳奈を一生ここに縛り付けておけない。過去を忘れないのはもちろん大事だけど、ずっと過去に縛られるのは苦しいだけだと思うから」


 私は宣戦布告をする。


「今でもあなたは佳奈の彼女なのかもしれない。でも私は奪ってみせる。たとえバチが当たるとか縁起悪いとか言われてもやってみせる。私は佳奈を救ってみせる」


 私は返事が返って来ないのをいいことに言い続ける。


「今のあなたにできないことを私がやる!」

「悔しいならそこから出で私を止めてみな!私はいつでも待ってる。じゃあね、明日は佳奈と一緒に会いに来るよ」


 そう言い私は藍那と文字が入っているお墓を背にして帰って行く。



 次の日、私は朝起きたらものすごく肩こりが激しくなってきた。なんでこんなこと今までなかったのに?!私まだ15歳だよ!?


 私は思った。あの幽霊さんが私の宣戦布告を受けてくれたのかなと。


 ならやってやる!肩こりなんぞに負けてなるもんか!私は早速、自分のスマホを手に取り佳奈の連絡先に電話した。

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心に秘めて マドロック @Kankin

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