梟狐の珠《きょうこのたま》

夏艸 春賀

声劇台本

《諸注意》

※なるべくなら性別変更不可。

※ツイキャス等で声劇で演じる場合、連絡は要りません。

※金銭が発生する場合、必ず連絡をお願いします。

※作者名【夏艸なつくさ 春賀はるか】とタイトルとURLの記載をお願いします。

※録画・公開OK。無断転載禁止。

※雰囲気を壊さない程度のアドリブ可能。

※所要時間約20分。比率は男1:女1:不問2です。(5人にする場合、不問が3人になります。)




《役紹介》

葵野 貴里子(アオイヤ キリコ)

20代、150cm、女性

主人公

喫茶店の看板娘

少しだけ不幸体質、ある一族の末裔

黒髪で肩までの長さ、茶色の瞳



赤根 晴明(セキネ ハルアキ)

見た目20代後半、176cm、男性

焦げ茶の髪、短髪。翠の瞳

喫茶店常連客



祥貴(ショウキ)

白い梟の妖、不問

見た目20代前半、155cm

銀の瞳に紅い瞳、後ろ髪が背中辺りまで伸びている。

土地神の使い。



楊貴(ヨウキ)

見た目20後半~30前半、176cm

九尾の狐の妖、不問

金の髪に紅い瞳。後ろ髪は尻迄ある。山の土地神。



その他

喫茶店店長】見た目30後半。180cm、男性推奨

悪鬼】腹減り鬼さん。



《配役表・4人》

貴里子(女):

晴明(男):

祥貴(不問)+店長:

楊貴(不問)+悪鬼:



《配役表・5人》

貴里子(女):

晴明(男):

祥貴(不問):

楊貴(不問):

店長+悪鬼(不問):





↓以下本編↓

────────────────────






貴里子M

「私は物心付いた頃から悪霊を呼び寄せてしまう体質だった。怖いものをては泣きじゃくる私に、祖母はふくろうの眼の水晶で作られた数珠じゅずをくれた。それは祖母が肌身離さず持っていた物。おかげで怖いものは視なくなった。

 その翌日から祖母は体調を崩し、今はもういなくなってしまったけれど。今でも数珠はお守りとして大切に持っている。」



【間】



《喫茶店にて》



晴明

貴里子きりこちゃん。……注文、良いかな?」


貴里子

「あっ、はい! おうかがい致します!!」


晴明

「どうかしたのかい? 具合でも悪いのかな?」


貴里子

「大丈夫ですよ、少しボーッとしちゃっただけですから」


晴明

「それなら良いけど。あぁ、ホットサンドと、食後にコーヒーお願い」


貴里子

「ホットサンドと、コーヒーですね! かしこまりました。……店長ー、ホットサンドお願いします!」


店長

「はいよ。貴里子きりこちゃん、お客様はあの人だけだし、少し買い出しに行って来てくれないかな? メモは今書くから。忙しくなると足りなくなりそうなんだよ」


貴里子

「買い出し、ですか?」


店長

「そう、お客様には私が対応するから大丈夫。難しい物はないと思うから、頼むよ」


貴里子

「はーい。ならすぐに行きますね!」


店長

「はい、買い出しメモ。分からなかったら店の人に聞けば良い」


貴里子

「分かりましたー」


晴明

「行ってらっしゃい」


貴里子

「ふふ、行ってきます!」


貴里子M

「エプロンを外し、店長といつも来てくれる常連客の晴明はるあきさんに見送られて、私は近くのコーヒー豆を譲ってくれる所へ向かう。喫茶店で働き始めて数年、慣れてきたからなのか、店長はたまに買い出しを頼んで来てくれるようになった。

 けれどこの日、私は数珠の入ったポーチをエプロンに入れたまま出かけてしまっていた。」



《路地にて》



貴里子

「よっし、買い出しは終わりっと……アレ…なんだろ?」


悪鬼

「……ナ、ニオイ」


貴里子

「あの……どうかしたんですか?……(腕を掴まれる)……ひッ!」


悪鬼

「……ウマソウナ、ニオイ……!」


貴里子

「……や、いや! 離して……」


悪鬼

「……クッテヤル……!!」


貴里子

「……あっ…! 数珠、無い……、嫌……やめて……!」


悪鬼

「ニガサ……、ッ!! オマエ、ハ……」


貴里子

「……え?」


祥貴

「お嬢さん。ほら、荷物落としたろ? 大丈夫か?」


貴里子

「あ、あの……駄目だよ、逃げて……」


祥貴

「嗚呼……うん。(貴里子の腕から悪鬼の手を引き剥がし、悪鬼に笑いかけ)……このお嬢さんに、何か用?」


悪鬼

「……ゥググ……オンナヲワタセ!」


祥貴

「やぁだね。渡さねぇよ」


悪鬼

「……オノレェ!!」


貴里子

「きゃぁ!!」


祥貴

「おい、逃げろ!」


貴里子

「え?」


祥貴

「今度から数珠だけは忘れんじゃねぇぞ!」


貴里子

「……え、なんで?!」


祥貴

「良いから、行け! 振り向くんじゃねぇぞ!」


貴里子

「……え、あ……はい! ありがとう!!(走り去る)」


悪鬼

「ニガスカァァアア!!」


祥貴

「はい、アンタはこっち。……われと遊べ!」


悪鬼

「グハッ……メ、メガァァア!!」



【間】



《喫茶店にて》



貴里子

「(荒い呼吸を整えないまま店へ駆け込む)……った、只今…戻り…っ……う……」


晴明

「おかえりなさい。……あれ、貴里子きりこちゃん? 大丈夫かい?」


貴里子

「……っう……、うわああ……!(泣き崩れる)」


晴明

「え?! あ、店長さん! 貴里子きりこちゃんが!!」



【間】


《喫茶店休憩室》



晴明

「……もう、大丈夫かい?」


貴里子

「はい……すみません……」


晴明

「良いんだよ。何か怖い事があったんだろう?」


貴里子

「……、…ぅう……」


晴明

「まだ震えてるかな……何があったかは聞かないよ。……とりあえず、僕はそろそろ……」


貴里子

「……ぅ、怖い、です……一人は……怖い…」


晴明

「……うん? けれど、このままここに僕がいるのはおかしいと思うんだよなぁ……」


貴里子

「……っ…ぐす……」


晴明

「あー……うん、分かった、とりあえず帰ろう。送ってあげるからさ。ね?」


貴里子

「……うぅ…、すみません……」


晴明

「良いよ、僕は貴里子きりこちゃんの事が心配だからね……店長さんには僕から一緒に帰る事は言うから、帰る支度して待ってて」


貴里子

「はい……」


貴里子M

「それから私は、晴明はるあきさんと一緒に店を後にした。お守りの数珠じゅずを左手首にめると私を助けてくれた人の事を思い出した。少年のように見えたけれど、女性のようにも見えた不思議な人だった。

 あの人は、何故私の数珠の事を知っていたんだろう。あの後、あの人は逃げる事が出来たのだろうか。でも私にはそれを確かめに行く勇気はなかった。」



【間】



《山の祠前》



楊貴

「ショウ……、ショウ! 何処どこに行っておるのじゃ、ショウ!」


祥貴

「……ここだよ、ヨウ」


楊貴

「お主……また人里ひとざとに行っておったのか。全く……羽根がけがれておるではないか」


祥貴

「だってさー、悲鳴が聞こえちまったから……」


楊貴

「だってもヘチマも無い。お主は力は強いとは言えまだ未熟。腹の足しにもらん鬼を狩った所で修行には……」


祥貴

「わぁってるって。いずれはお主はこの山のぬしにぃとか何とか言うんだろ? 分かってるよ。でも、あの孫っ子……」


楊貴

「あの孫娘には、お主の力の込められたたまが受け継がれておるのじゃろ? ゆえに声もぉ聞こえてしまうのは仕方の無い事」


祥貴

「………あの婆さん、まもれ無かった………」


楊貴

「……」


祥貴

「婆さんの身体には悪鬼が取り込まれてた。それを抑える為に力を分けて渡したけど……手遅れって、分かってたんだよな、あの婆さんは、自分で。だから孫っ子にくれたんだよな?」


楊貴

「…、……さぁ、の」


祥貴

「ヨウならってたよな。あの時婆さんが此処に来て、願いをつづってた時。ボソッて言ったじゃねぇか。せめて、安らかになって。我は聞いてたぞ」


楊貴

「………そうか。聞いていて、何故なにゆえあのおばばたまを渡した? 力を分けた? わらわは見捨てたも同然……」


祥貴

「(被せて) それが、気に食わなかったんだよ! 婆さんの孫っ子はまだまだあの悪鬼を取り込める程成長してなかった! 娘なんか婆さんの力の事、全っ然知らねーで呑気のんきに生きてやがって!! 彼奴あいつ、婆さん喰い破って何処どこ行ってんだよ!?」


楊貴

「………さぁ…妾は、あずからぬ」


祥貴

「~っ!! もう知らね!! ヨウなんか大っ嫌いだ!!!(梟になって飛び立って行く)」


楊貴

「……ショウ……お主は気付かぬか……鬼は、孫娘の近くに……」




【間】




貴里子M

「しばらくして、私と晴明はるあきさんは付き合う事になった。あの日以来、働いている間も気にかけてくれたり、連絡先を交換した後、何度か会っている内に私は少しずつ惹かれていった。

 数ヶ月後、私は晴明はるあきさんからプロポーズをされ、一緒に暮らす事になった。」



《新居にて》


晴明

貴里子きりこー、ほら、ここが僕らの新居だよ」


貴里子

「凄い……立派な家……本当に、ここに?」


晴明

「あぁ。町外れだから少し手頃だったんだよ」


貴里子

「……でも…」


晴明

「良いから良いから。ずっと貯め込んでてさ。結婚式の費用とは別にしてあるから大丈夫。それに一緒に暮らすならこの位はしないとさ。……子供だって欲しいし、その時に引っ越しするのは大変だろう?」


貴里子

「もう、そんな事言って。晴明はるあきったら」


晴明

「……僕は、気が長いからねぇ……貴里子きりこの心がさだまるまではちゃんと待つよ」


貴里子

「……う、うん、ありがと」


晴明

「さ、家に入ろう。引っ越しの荷解きしないと」


貴里子

「そうね……ッ…(左手首にはめている数珠にヒビが入った音)……え…?」


晴明

「んー? どうかした?」


貴里子

「ううん、なんでもない……」


貴里子M

晴明はるあきと付き合うようになってから、数珠のヒビは毎月、たま一つ一つに小さく入っていく。それは私の心が晴明はるあきに開いていくたび

 数年後、私と晴明はるあき夫婦ふうふとなった。その頃には数珠は後二つを残して全てにヒビが入っていた。」



【間】



《山の祠前》


楊貴

「………よどみ、にごり、腐っていく。奴は確実に孫娘を喰らうじゃろうな。その為ならば手段は選ばぬ……。ショウ……お主はそこまでして救いたいか。妾の力を使い、鬼の力を抑えたとて、鬼はにえの直ぐかたわら。離れぬよ、喰らい尽くすまで……」



【間】



貴里子M

「結婚式を終え、初夜を迎えようとした時。晴明はるあきに言われた通り、肌身離さず左手首にめていた数珠を外した。すると突然、高熱にる頭痛と吐き気に襲われ、私は意識を失いかけていた。遠のく意識の中、彼の笑い声が聞こえる。」



《新居内》



晴明?

「……ふ、ふふ……ッく、グハハハハ!! 遂に……遂に! この時が来たのだ! 石ころの分際でワシをはらうつもりでおったのかぁ? 小童ぁああ"!!」


貴里子

「{……こわ、っぱ……?}」


晴明?

「残念じゃったなぁあ! ワシはのぉ! そんな力では殺せぬぞ!! ヌァハハハハ!!」


貴里子

「{殺すって……何……なん、なの…? は、るあき……}」


晴明?

「さぁて何年ぶりかのぉ、若いおなごの肉を喰うのは! お前の婆さんの肉もウマカッタぞお?」


貴里子

「{…ば、あさん…}……って、あ……わ、たし、の……?」


晴明?

「おお? なんじゃあ起きておったか。眠っておった方が良かったろぅにぃ……のぉおぉおお!」


貴里子

「…や、(男に首を持たれ持ち上げられる) ッくぁ………は、るあき?」


晴明?

「ブヒャハハ! 晴明はるあきなど、いない。オマエはワシに喰われるのよぉおお!!」


貴里子

「…ッァ……い、やぁ…」


晴明?

「さあて……まずは……ヒッヒャッハハ! 腕をもいでやろぉかのおぉお!」


貴里子

「……い、やぁ……!!」


祥貴

べ!!!」


貴里子

「……へ…?」


晴明?

「!!?」


祥貴

「我を、喚べ!!!」


晴明?

「ぐ、うぅ……させぬぅ、こわっぱぁあぁあ!!」


祥貴

「早く!!!」


貴里子

「……ッく、ぁ……?」


祥貴

「……我の……名を…!!」


貴里子

「……は、ァ………うき…」


晴明?

「さぁせえぇぬぅううああああ!!!」


貴里子

「……っき……祥貴しょうき!!!」


晴明?

「ぐがあああ!!!」


貴里子M

「パリンッ! と何かが弾ける音がして、頭に直接響いて来た声のぬしの名前を叫ぶと、晴明はるあきの姿をしていた男の手が離れた。一気に酸素が送り込まれて私はせ返ってしまう。けれど先程まであった頭痛と吐き気はやわらいでいた。

 そして、倒れ込んだ私の目の前に、銀の髪が揺れている。」


祥貴

「おい! 大丈夫か?!」


貴里子

「(激しく咳き込む)」


祥貴

「生きてる、よな!? 孫っ子!」


貴里子

「……ッは、ぅ…ま、ご…?」


祥貴

「おっし。大丈夫だ、お前は助かる。我が全部持ってってやる。だから、安心しろ!」


貴里子

「……ぅ、え、……だれ……」


祥貴

ねむれ。次目覚めた時にゃもう全部終わってっから。大丈夫だ、な?」


貴里子

「……う、ん……ありが、と、う……」


祥貴

「おう! 任せろ!!」



貴里子M

「薄れていく意識の直前で見たのは、人懐っこい笑顔だった。

 数日後、私は病院のベッドの上で目が覚めた。町外れの空き家の玄関先で倒れていた私を、以前働いていた喫茶店の店長が見付けてくれたらしい。何故あそこで倒れていたのか私には検討も付かない。ただ、すぐ側に粉々に砕けた数珠があったと聞いた。

 数珠は祖母から貰った大事な物だった。私を護ってくれる物だと聞いた。砕けてしまったと言う事は、役目を果たし終えてしまった、と言う事なのだろう。」



【間】



《山の祠前》


楊貴

「……孫娘は無事。あの一族を喰い散らかしていた鬼は……妾の腹の中。……果て……、…何処に行ったのやら………ん?」


祥貴

「………ッ、…」


楊貴

「無事、では無さそうじゃのぉ」


祥貴

「ふ、……ッふは。……奴、は…?」


楊貴

「腹の足しにはったぞ」


祥貴

「そっ・・か……良かっ……た」


楊貴

ようやく……帰って来たかと、思えば」


祥貴

「…、へへ……」


楊貴

「……ショウ……お主、死ぬのか……?」


祥貴

「死、なねぇ……から、…」


楊貴

「………」


祥貴

「……だから……、ヨウ……泣くな……」


楊貴

「泣いてなど、おらぬ。呆れておるのだ……ショウ……」


祥貴

「……く、触ろうとすんな。ヨウまで、けがれちまう……」


楊貴

「……ショウ……」


祥貴

「……見込み、ある奴は…。…もう、直ぐ………」


楊貴

「(何かの気配に気付いて片眉が動く)……死ぬ、のは構わぬ、が……随分と、ケガレを……運んでくれた、のぉ…。……お主の生命いのち、一つでは…足らぬぞ」


祥貴

「…{…バッカやろ……少し、声……震えてんぞ……気、晴れよ……}…」


楊貴

「……のぉ、小童……そこでこそこそしておる、小童」


祥貴

「{そう……それでこそ、我の、ヨウ……}」




【間】




貴里子M

「病院を退院した後、私は店長と結婚し、喫茶店を続けて行く事に決めた。

 私には数年間の記憶が全くない。何故一度この喫茶店から離れてしまったのだろう。聞いてはみるけれどはっきりとした答えは貰えない。忘れているなら忘れたままで良い、店長も両親も、そう言う。

 たまに、眠っていると、私の目の前に銀の髪をした不思議な人が笑いかけてくる。とても人懐っこい笑顔で。私はその笑顔を見る度に涙が出るのだ。」




終わり

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梟狐の珠《きょうこのたま》 夏艸 春賀 @jps_cy729

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