1-2  三人組の中心格・御先幸人


「んー?」


 不破ふわ功太郎こうたろうは、突如上がった甲高い声に振り返る。

 見れば、十歳位の少女が、妹らしき女の子を抱えて回っていた。その目は喜びに輝き、満面の笑みを湛えている。


「何だろ、あれ。何かあったんですかねぇ?」

「決まってんだろう。これだよ、これ」


 近嵐ちからしかなめは、呆れ混じりの溜め息を零し、親指で自分の左隣を差した。功太郎も「あー、成程」と自分の右隣を見やる。



 両隣から視線を受け、御先みさき幸人ゆきひとは、友人達を見比べる。



「……何だ、二人共」

「何だって、なぁ、不破?」

「ねぇ、カナさん?」


 意味ありげな目配せを交わす二人に、幸人はゆっくりと目を瞬かせる。


「私は何もしていないぞ」

「何もしてなくても、幸人はなぁ。もう存在がなぁ」

「まぁ、若ですからねぇ。仕方ないのかもしれませんけどねぇ」


 片や諦め混じりに、片や嬉しそうに笑われ、幸人はもう一つ目を瞬く。


「ま、気にすんな。どうせお前には分かんねぇよ」

「そうそう。そんな事より、聞いて下さいよぉ」


 功太郎の明るい声が辺りに響く。面白可笑しく語られる内容に、要は呆れ、何度となく突っ込んだ。その度功太郎も言い返し、馬鹿馬鹿しい話を続けた。



 そんなやり取りがされる中、一人黙り込む幸人。



 普段も聞き役に徹している事が多いが、本日は功太郎と要の会話にも耳を貸していない。



 只管、考え込んでいた。



(え、要の言う『これ』って、本当に何だ? 私は一体何をしてしまったんだろう。娘さん達が悲鳴を上げるような事なんて、していない、よな? 直前に、たまたま目が合っただけだし……

 え、まさか、それが原因?

 う、嘘だろう、そんな事で悲鳴を上げられただなんて。

 確かに、一瞬変な空気は漂ったけどさ。でもすぐに逸らしましたからっ。帽子を被り直すふりをして、すぐに前を向きましたからっ。だからこれしきの事で不審者扱いはされていない筈、だと、思うけど……でも、要も功太郎も『お前、理解していないな』みたいな顔をよくするし……

 もしかしたら私、実は普段から不審者っぽいのか? だからよく遠巻きに様子を窺われたり、こちらを見ながらひそひそ話されたりするのか……? だ、だから、友達が功太郎と要しか、いないのか……)



 幸人の背中が、僅かに丸くなる。だがほんの僅か過ぎて、誰も気付いていない。

 表情もほぼ動かず、涼しげなまま。動揺のどの字も見当たらない。




(……これも、我が家に代々伝わるのせいだ。よりによって不審者だなんて……うぅ)




 しかし、内心は見た目程平静でもなかった。


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