リカリカラジオ

黒井 猫左衛門

リカリカラジオ

 とある高校の昼休み。

 放送部部長の理上理香(通称リカリカ)は機材の調子を確かめ、軽く発声練習をした後、昼の放送を始めた。



理香

「昼の放送を始めるわ。まだホームルーム中のクラスや、私の声がお邪魔だと感じる人は、教室にあるスピーカーのボリュームを下げてちょうだい。さて、今日はスペシャルゲストを用意しているわ。この高校の生徒会副会長、日向晴樹くんよ」


晴樹

「どうもー! 今日は君たちの昼食を彩りあるものにするためにやってきたぞ! それにしてもスペシャルゲストなんて照れるなぁ」


理香

「あぁ、そのことなのだけれど、本当は生徒会長の一条くんが来る予定だったのよ。でも会長は風邪らしいから、代役としてあなたを呼んだというわけ」


晴樹

「言わなくていいよそれ!」


理香

「あなたはノーマルゲストね」


晴樹

「なにちょっとうまいこと言ってやったみたいな感じ出してるの!」


理香

「ほら、この放送を聞いている人たちに謝りなさい」


晴樹

「会長の登場を待ち続けていたという方、どうもすみませんでした……って、ぼくだって需要あるよ多分!」


理香

「自信持って言わないあたり、あなたって意外と謙虚なのね……。まぁいいわ。では今日のお便りのコーナーに入りましょうか。うわ、お便りのほとんどが会長のものばっかりね」


晴樹

「会長は、ここや他の高校の男子と女子からラブレターがたくさん来るぐらい人気だから、仕方ないよなぁ」


理香

「なぜ男子からのラブレターも殺到しているのかしら。会長は男性でしょう?」


晴樹

「そんなこと言っちゃダメだよリカリカさん。好きって気持ちは性別を問わないんだから」


理香

「無駄に男前なセリフね。というか、その頭の悪そうなあだ名はなにかしら……」


晴樹

「じゃあ、リカちゃん人形とか?」


理香

「私、人から温厚のおんたろ~と呼ばれるくらい親切心溢れる女性なのだけれど。どうやら、生まれて初めて暴力というものを使わなければいけないようね」


晴樹

「おんたろ~のインパクトが強すぎて、思わず暴力への突っ込みをする気が失せたよ……」


理香

「冗談はこれくらいにして。では、高校2年の女子、Bさんからのお便りを読むわ。


 わたしは最近、定期テストの成績が低迷しいて困っています。特に数学が苦手です。数の問題なのにXやYが出たり、答えが2個以上出たりと、とにかく無茶苦茶です! 会長さん、どうすればよいでしょうか?


では日向くん。答えてあげなさい」


晴樹

「会長へのお便りなのに!?」


理香

「言ったでしょう。この放送室では、私が絶対的な権限を持つのよ」


晴樹

「そんな怖いこと言ってなかったよ!」


理香

「とりあえず、あなたなりの見解でいいわ。一応このお便りは生徒会室に渡しておくから」


晴樹

「それなら会長も見るし、まぁいいか。ええとそうだなぁ。数学はとりあえず、公式をしっかり覚えればいいんじゃないかな?」


理香

「話は変わるけどあなた、この前の定期テストで赤点取っていたわね」


晴樹

「なんで知ってるんだよ! 全然話かわってないよ! それに今ので説得力ゼロになっちゃったよ!」


理香

「冗談で言ったのに、まさか事実とはね……。軽率な発言してごめんなさい」


晴樹

「そういう反応が一番恥ずかしいよ!」


理香

「続いてのコーナーにいきましょうか」


晴樹

「結局、成績の件はなにも解決してないじゃん……。Bさんごめん、今度会長に聞いてみるよ」


理香

「続いては、ゲストへの質問コーナーね。まぁ名前の通り、あなたに色々質問して辱めるコーナーよ。さっきと似ているわね」


晴樹

「悪意の孕んだ概要説明だなぁ……。わかった、なんでも聞いてくれたまえ」


理香

「そうねぇ、会長に聞きたいことならそれなりにあったのだけれど、日向くんに聞きたいことねぇ……。あ!」


晴樹

「なになに?」


理香

「あなたは、今まで何回『フライデー』や『週刊文春』に載ったことがあるのかしら?」


晴樹

「どうしてぼくがゴシップ記事の対象にちょうどいい存在とされているんだ! 記事にされたこともないし、そんな予定はない!」


理香

「あらそう。プレ」


晴樹

「『プレイボーイ』もない! というかそれに関してはジャンル違うだろ。読んだことはないけど」


理香

「ではそうね、趣味や道楽はあるかしら?」


晴樹

「既にネタ切れですと表現しているような質問だね……」


理香

「別に、あなたの変態的な嗜好が聞きたいわけではないのだけれど」


晴樹

「まだ何も解答していない! そんな間違いがあってたまるか!」


理香

「あなたは終始、元気ハツラツね。この放送を文字に起こしてみれば、きっと感嘆符ばかりになるわよ。あ、感嘆符ってわかるかしら? 難しい言葉を使ってごめんなさいね」


晴樹

「びっくりマークのことだってわかっているし、子供扱いもしなくていい! そうだなぁ。取り立ててなにかあるわけでもないけれど、しいていうなら読書かなぁ」


理香

「なるほど。読書しているぼくマジかっこいい、ということね」


晴樹

「そこまで狡猾な男じゃないよ!」


理香

「無理しなくていいのよ。あなたの魅力のなさは、読書ごときでは消えないものね」


晴樹

「慰めるのかと思えば結局罵るのかよ! カウンターパンチがクリティカルヒットだよ!」


理香

「途中からなにを言っているのか全く理解できなかったわ。リカだけにね」


晴樹

「……」


理香

「そういえば暴力、英語でヴァイオレンスの行使がまだだったわね」


晴樹

「いやー、理香さんのダジャレは面白いなぁ! あまりの素晴らしさにレッドカーペットを敷こうか考えたぐらいですわ!」


理香

「そう? なかなか心地よいことを言ってくれるわね」


晴樹

「ふぅ……」


理香

「質問のネタが尽きたわ。日向くん、なにか自己PRをしなさい」


晴樹

「リカリカさんは一応部長でしょう!?」


理香

「そうね、部長になってからますますここをやめにくくなったわ」


晴樹

「重いよ! この放送それなりに人気あるからもうちょっと頑張ってください!」


理香

「ひ、日向くん? さすがに土下座しながら懇願はちょっと……」


晴樹

「土下座してないから! 聞いてるみんなに勘違いされちゃうでしょ!」


理香

「ん、そろそろ時間のようね」


晴樹

「ええ!? 僕のPRは!?」


理香

「事故PRになるだけだからやめておきなさい」


晴樹

「今すぐ文字に起こせ文字に!」


理香

「それでは日向くん、最初で最後の出演ありがとう」


晴樹

「ぼくこれで出演終了なの!? だったらもうちょっと喋ら」


理香

「みなさんさようなら~」


晴樹

「いやああああああああ!」

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リカリカラジオ 黒井 猫左衛門 @4rn1___Akm

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