言語の成り立ち、在り方を解明していくという言語学のアプローチで未言に迫り、読者を巻き込みながら未言の魅力へヒロインが邁進していく良作です。
ところが、ヒロインの琴音が、主人公の千秋を通して未言を解明していく展開かと思いきや、様々な「気付き」から、千秋の方が逆に琴音の真意に疑問を抱き、それを明らかにしていく。その中で、未言のルーツではなく、自然と「小川千秋」「山崎琴音」という二人の人物のルーツが明らかになっていく展開へと読者を引き込むところがこの小説が良作たる所以です。
そう、これは「登場人物個人」の魅力を書いた現代小説なのです。
人の使う「言葉」、その言葉に裏打ちされた「人格」、その人格を培う「人生」、これらを丁寧に描写し、解き明かして、人間の持つ「生の美」を描いた作品とわたしは思います。
生きる人の美しさを信じる方にこそ、読んでいただきたいです。