出勤20分前

森乃 梟

 目覚まし時計が鳴り、スイッチを押して止めると起床の時間。

着替える前に台所に立ち、軽くオープンサンドを三つ作り、水筒にお湯を入れ、ティーパックを一つ、昼食用のパン二つと一緒に袋に入れると、残りのサンドをかじる。


 洗面台で歯を磨き、顔を洗った後、制服に着替える。

プライベートタイム10分、玄関を出て車のエンジンを掛ける。

いつもの出勤20分前。


 今日もエンジンの音は快調、クラッチを踏みギアをバックに入れると、乗車前と全ての鏡で後方を確認した後、一気にバックで「て」の字を逆からなぞるように、カーブ部分の通りに後退する。(門柱のせいで真っ直ぐにバックは出来ないのだ。)

ギアを1速に入れたら、前進開始! 

 ギアを2速から3速に入れる頃には、直線100メートル分。すぐさま2速に入れて左折。3速に入れる頃、また右折。そこからは道なりに1キロメートル。両側から人や車が飛び出して来ないか注意しながら、ギアは4速から3速を繰り返す。


 国道に出ると直線400メートル。

ここが一番の楽しみで、橋を渡り最初の信号までの距離を思い切り楽しむ。

 1速5000回転、2速6500、レッドゾーンぎりぎり、スピードは100キロ近くにもなる。ノーブレーキで3速に入れ、4速、トップギアに入れてアクセルを踏まずにいると自然に60キロのスピードに戻る。

更にアクセルを踏まずに信号まで惰性だせいで走らせる。(スピードが落ちない時は、3速にシフトダウンさせてエンジンブレーキで速度を落とす。)

すると、30キロ迄スピードは落ちてくる。そこでウィンカーを出し右折。(他の所でもウィンカーはちゃんと出してますヨ。)

 それから先は道なりにほぼ真っ直ぐというか、蛇行だこうするのだが、対面通行不可能箇所や、飛び出しがよくある通りもつながっているので、要注意。

 キープレフトどころではなく、1600ccの車は更に左側へ。タイヤが田畑に落ちないように、目線は常に左側のサイドミラーと、後続車が居ないか確認する為にバックミラーに目をやる。勿論もちろん、左右の車や人、自転車にも気を配る。

 通りは所々細くなり、後続車が止まれば対向車が走れなくなり、自分も進めなくなる。

 

 大きなカーブは対向車が来ないコトを確認したら対角線を描くようにショートカット。小さなカーブはアンダー気味のステアリングに合わせて、大きめにカーブに入り、ゆっくりと直線になる頃にアクセルを強く踏み徐々にスピードを上げていく。

 

 民家の為、向こう側が見えないクランクでは、カーブミラーを利用して対向車にパッシングをし、自分の存在をアピールする。こうするコトで相手に自分の存在を知らせ、互いに道を譲り合う幅を空けるコトが出来る。


 と、開かずの踏み切りにつかまってしまった! 残り時間はあと7分。

目指す先は、通常に走っても9分掛かる。前を走る車も同じく踏み切りにつかまり急いでいる様子。

 そのまま前の車に続けば辿たどり着ける!

最後の右折をした後20メートル。駐車場に車を止め、車を降り、建物の扉迄ひた走る!


 が、この日は課長のほうが先に着いていた。当然のコトながら、お説教を食らってしまった。

要は、課長よりも早く着けばセーフなのだ。

「やっぱり開かずの踏み切りか…。」

ぼそっと呟いた声を課長は聞き逃さなかった。

「公共機関を使うのではないのですから、開かずの踏み切りもちゃんと時間に入れて出勤するように! 今日の君は遅刻ですね。」

 ったく、薄情な奴だ…。


 朝寝坊と時間ぎりぎりの出勤は変わらないが、毎朝走るF1よりも(※註)危険な朝のコースは、適度に緊張感があり結構気に入っている。


 次は課長よりも早く着かねば!

闘志が湧くだけで、一向に目覚ましの時間を早めるつもりがないところがタマに傷である。


       終わり




※註 F1レースでは接触によるクラッシュやスピードを出すので危険だと思われていますが、本来は専用サーキットを走っているので、民間人や一般車の飛び出し、道交法に定める対向車等の危険はありません。



      

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出勤20分前 森乃 梟 @forest-owl-296

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