偽は時として真になる

 ……思わずニヤついてしまった。俺はすぐさま口元を正す。バス車内にある二人掛けの座席。窓側に座っている俺は通路側に置いているスクールバックから原稿用紙を取り出した。

『人間には妄想力という思考方法がある。』

 うん。良い書き出しだ。バスの揺れで字は汚くなるものの、それを気にすることなく俺は筆を進める。5分程の時間が経過した辺りでバスが停留所に到着した。よし。この停車している短い時間の中で書き進めてやるぞ。

「すいません……」

 自分が書いていた文章と全く同じ言葉を言われた。一瞬にして変な汗が背中を流れる。

「隣、座ってもいいですか?」

「あっ……すいません」

 通路側を見ると、俺と同じ高校の制服を着た女子高生が立っていた。俺はすぐにスクールバックを自分の足元に置く。

「何年生ですか?」

 これは妄想なのか? それとも現実か? 時が止まったような感覚に陥る。

『偽は時として真になる』

 俺が今、原稿用紙に書いている文章。この言葉で幕を閉じよう。そう閃いた初夏の下校時間。

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事実は小説を基に奇なり 口山大輝 @6-9da

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