第15位 紫式部
彼女の力のみで、ネット投稿環境をこの位置までのし上がるのは困難だ。
紫式部は寧ろネット投稿に不向きな側の作家だと思う。
まず『源氏物語』はストーリーの経糸が多過ぎる。何かツボに嵌った時、読者が潜在的に願う「この軸で読みたい、作者さん、盛り上げて」という望みがはぐらかされがちなのだ。
はぐらかされながら全体として大きなうねりとなっていた、というのが『源氏物語』の凄さではある。経糸の多さの分、精緻に彩り豊かに織り上がる。
しかし、ネット連載的には不親切だ。
投稿サイトで『源氏物語』が一作、或いは、三作として書かれていたとする。恐らく読んでいる途中、スピンオフにすれば? と思う流れと何度も遭遇する。
例えば、源内侍(肉食系オババ)。
彼女の登場する『紅葉賀』と言えば、大主軸、1話から匂わせ続けた禁断の香りが実現した結果、つまり「出来ちゃった」を描くシーン。どうしよう? どうなるの? を最大限に煽り、盛り上げ、効果音でも流したいところ。
「私みたいなドライフラワー、だ~れも食べてくれない♡ ……どころか掃除もしてくれないじゃない? うふ。私ってぇ、パラパラ散ってメーワク?」
などと言う雌豹シニアとイケメン共のドタバタ劇をここで見たい人は、どんな読者だろう。かなりなマニアだと思う。
因みに私は初めてノーカット版『源氏物語』を読んだ13歳頃、キララ君がストレスに耐え兼ねて暴走した話かと思った。
シリアス劇に異端や道化は欠かせないとはいえ、この前の帖が『末摘花』ということも含め、需要は微妙。いや、はっきり言おう。余所でやれ。
ここで読者の心が折れてもおかしくない。
こういうストーリーが小説投稿サイトに向くとは言い難い。
しかし! ひたすら書く、が出来る紫式部である。PVが伸びなかろうが、反応がなかろうが書き続ける。読み手を置いてきぼりにしがちな悪癖は、読まれることより書くことに、より満足感を得る傾向と一体なのかもしれない。
そして、書くことへの拘りが強い為、文章力や教養といった書き込みに妥協はない。才女たる自分が満足出来るまで書き込む、といった風になる。
それは確かに、キラリ、と光る。
大量な投稿作を読み漁って目の肥えたネット小説読者の目に、明らかな違い、として認識されるだろう。
その中に、独自路線と洗練に惹かれる読者は必ずいる。何故なら、今時わざわざ他媒体ではなく小説など読もうという者は大抵、技巧か知性に敏感で弱い部分があるからだ。そして、それを感知出来る自分に多少の誇りがある。
長かろうと、更新を待たされようと必ず読んでくれるような有難いファンがつく、と思う。
だから、ファンのレベルがやたらと高い。これこそが紫式部の特徴だ。
そして、これが作品の強力な発信源となる。
それこそ出版化オファーが来るレベルの作者が『源氏物語』や『紫式部集』のファンだ。
で、彼等がレビューを書いたり、呟いたりするのである。
「カクヨム史上最長! しかし、最高の傑作!」
なんて言ってくれる人もいるかもしれない。
自分が良いと思ってフォローしている作家が面白い、嵌ってる、と言った作品はそれなりに気になるものだ。取り敢えず、数話は読んでみる者もいる筈だ。
それでも、物語の方はついて行ける自信のない者が多い。
一方、和歌に関しては惹かれる人が出て来る。
文字数少ない、美しい、情緒的……ネット向きだ。そこで『紫式部集』は『詩・童話・その他』ジャンルのランキングを昇って来るだろう。
その内に、『源氏物語』や『紫式部集』のファン作家がずば抜けた作品を書いたりもする。結果、翻って紫式部と作品に箔が付く。
こうなれば、何かにつけ、『源氏物語』を題材にする作家と作品が誕生する。
何しろ一作の中にあれもこれも書いている為、料理の材料をここに見つけるのは容易い。書き手次第で何でも作れる。然も、何をしてもバックに「知性」という安全圏を確保してくれる。
ある意味、二次創作的に美味しいのだ。
世の中では「派生作品」や「引用作品」或いは「二次創作」の方が、この原典より瞬発力がある。だから、『源氏物語』を知らずに、それを読む人が沢山いる。
だが、勢いある「時の作品」に嵌れば嵌る程、元があることを知り、それがどんなか気になる。
勿論、読者は元にアクセスしてみようと考える。
買うなら迷うかもしれない。図書館に行くのも面倒かもしれない。そもそも『源氏物語』の長さの本、家まで運ぶのが重くて大変だ。
しかし、ネットでちょいちょいっと検索して見られるなら?
今、嵌っているものを楽しむ為に見てみる気になる。
後世の作品が絶妙に『源氏物語』を料理してくれていると、大本を見た時の目から鱗な印象と面白さが凄い。こういう時、読者は♡や☆を押したくなる。
他の部分は如何でも良いのだ。自分の今、推す作品との関係性、そこが素晴らしければ。検索して飛んで来た、特定話に♡が集中する。
決定的に瞬発力がない為に、そこを捨ててかかったが故の勝利かもしれない。
オタク気質の儘に書き込んだ話は衒学趣味者を引き付け、衒学趣味者は勝手にそこから内容を更に発展させる。この繰り返しが千年続いている。
徹底的に長期戦には強い。
そういう戦い方もある、という一例だろう。但し、このケースに嵌れる作品は極めてレアな為、あくまでも例外的な化物と思うべきだ。
【カクヨム向き】文豪ランキング ~日本編~ 小余綾香 @koyurugi
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