エピローグ
ボクは大きく深呼吸をした。夏の早朝は気持ちがいい。風も昼間と違って爽やかだ。
「朝っぱらから蝉が元気だな」
高校に入って最初の夏休みも半ばが過ぎた。父の会社が盆休みに入った昨日、帰省した姉と両親の四人で祖父の家へ遊びにきた。
宅地化が進んでいる我が町と違ってここはまだ昔の風景が残っている。昔の音も残っている。田植え時の蛙、真夏の蝉、秋の虫。
「今日も暑くなりそうじゃて」
祖父は畑に水を撒いている。祖母と二人でここに引っ越してから今年で一〇年ほどだろうか。田舎暮らしもすっかり板に着いたようだ。
「高校生活にはもう慣れたかのう」
「うん。友達もできたし、それなりにね」
ここは祖母の実家だ。引っ越す前、祖父母はボクらと一緒に住んでいた。ボクが小学二年の時、この家で一人暮らしをしていた祖母の兄が他界して空き家になったため引っ越してきたのだ。今では年金をもらいながら祖母と二人で田舎暮らしを楽しんでいる。
「仲の良い友達のようじゃな。みんなからはヒフミ君なんて呼ばれておるのじゃろう」
「う、うん。まあね」
余計なことを教えたのは母か、それとも姉か。今では家族全員にヒフミ君と呼ばれているからな。このあだ名を家庭内だけに留めて置かず、大々的に一般化する腹積もりのようだ。
「それから彼女もできたそうじゃのう。アオイさん、じゃったか」
「え、いや、彼女なんて。ただの同級生だよ」
くそっ、アオイさんの話までしていたのか。たぶんトウノも話題に上がっているんだろうな。
「ところでゲームは今でもしておるのかね。子供の頃から好きじゃったが」
「勉強の合間にちょこちょこプレイしているよ。昔みたいに四六時中ゲーム三昧ってわけにはいかないけど」
これまで祖父にはハードだけでなくソフトも大量に買ってもらったからな。そのほとんどは売り飛ばして金に換えてしまった。今はネットゲームが主流だから現物より現金のほうが有難いんだよな。
「それはよかった。実は知人がゲーム関連の仕事をしておってな。面白いゲームだと言って譲ってくれたのがあるんじゃ。パソコンで遊ぶゲームなんじゃが、やってみんか」
「へえ、やってみたいね」
「なら居間へ行こうかの。テレビ台に仕舞ってあるんじゃ」
祖父はホースの水を止めて玄関へ歩き出した。まだまだ足取りはしっかりしている。パッケージのゲームか。久しくプレイしてないな。
「どんなゲームなの、
「
祖父はこちらを振り向くとニヤリと笑った。不意にディアの顔を思い出した。ああ、あいつもこんな風に小悪魔のような微笑を浮かべることがあったっけ……
ゲームの国から来た娘 沢田和早 @123456789
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