なんでもない寒さの奥からほろりと滲み出す、あたたかさ

 名前と反して冬に散歩をするのが好きだという冬樹の先輩、春香。それがいいものだなんて思えないと否定するにはまず実行してみなければと思い立ち、冬樹は年の瀬の世へと出かけてみた。かくて意外な心地よさや思いがけない侘しさを感じる中、彼は散歩中の春香に出遭い、つい誘ってしまうのだ。「ところで、初詣、いっしょに行きませんか」。

 冬樹くんにとって春香さんはただの先輩じゃなく、なにより気になる女子です。冒頭の独白からそれが明示されていることで、読む側は彼女との出遭いに「来た!」と盛り上がらせられるわけですよ。この構成、絶妙ですねぇ。

 そして本作最大の魅力は、セリフがある意味で“トドメ”になっていることですね。冬樹くんのセリフには最小限の情報しかありません。でも、地の文で綴られる濃やかな心情があるからこそ、そのひと言はフィニッシュブロウさながらの極上な甘やかさを表すのです。

 さて、先輩後輩の関係は年を越えることでどのように変じるものか? ご自身の目でご確認いただきたく。

(「行く年と来る年と」4選/文=高橋 剛)