アイデンティティー
先日、ベルリンで知り合った日本人の友達とアイデンティティーについての話になった。
彼女は日本で育った。日本のパスポートを持っていて、苗字も日本人だが、彼女のルーツは韓国にある。
母親が日本人と再婚し、日本へ一緒に移住したという。物心ついた頃にはすでに日本で暮らしていて、日本人の父との間に生まれた弟と妹もいる。韓国語は全く話せなかったが、成人してから韓国に行き韓国語語を習得したという。
母親が韓国人であることから、日本で育ったとはいえ、韓国の文化も受け継いでいる彼女は、家に遊びに行くと必ず韓国料理を振る舞ってくれる。うちに遊びに来るときは必ずと言って良いほど韓国料理を持ってきてくれる。
そんな彼女がベルリンで知り合った日本人の友人から、何度も国籍について聞かれるのがとても嫌だとつぶやいていた。確かに彼女の生い立ちは複雑で、結局の所あなたは何人なの?とその友人は思っているのかもしれない。
彼女としては、韓国人の母と父がいて、その親が離婚し、母親の再婚相手が日本人だったことで、日本に住み始め日本人になって、記憶がある限り日本で暮らしたことしかなく、母親やその親戚から韓国の文化の影響も受けて育った。それをそのままを受け入れてもらいたいと思っている。ところが、そんな彼女を日本人は日本人として認めたくないように見えてしまう。
日本人は人を分類することが好きなような気がする。新しいグループができるとその言葉が流行ったりもする。
アラフォーやアラフィフ、森ガール、オタク、撮り鉄や乗り鉄、負け組や勝ち組、男、女、ハーフ、他にも就職先や出身大学などなど人にラベルを付けて楽しんでいるように見える。
人は生きている以上どこかのコミュニティーに属して生きているのだから必ずどこかのグループに分類されることができる。だが、そのグループに属するからと言って全ての人が同じとは限らない。全ての人はそれぞれ違うことを感じたり、違う価値観の中で生きている。あなたの常識が、他の人の常識とは限らない。
僕もアメリカ留学を終え、日本で働き始めた時に自分が何者なのかわからなくなった時期があった。高校生の時はホームステイをしていたため、アメリカ人のホストペアレンツに実の子のように教育された。どっぷりアメリカ文化浸かり、気づかないうちに価値観が変わってしまっていた。その後も学校で学び続け、完全に価値観がアメリカよりになってしまっていた。
その後日本で就職したため、日本での生活を始めた。
そんな中、暮らすのはかなり難しかった。
外見は純の日本人である僕は日本人としての行動を求められる。少しでも日本人らしくない行動をとれば、アメリカかぶれと陰口を言われたり、「日本人だよね?」「なんでそんなこと言うの?」と確認される。
日本人はみんな同じ意見を持っていて当たり前だと言う前提での質問なのだろう。日本人なら余計なこと言わないで足並み揃えてください、と言う無言の圧がそこにはあった。とても窮屈に感じていた。毎日自分を押し殺して、何か別の人物であるかのように振る舞わなくてはいけないのがとてもつらかった。他の人に話しても理解されることはなく常に孤独感を抱えていた。
そんな時に僕が助けられた言葉がある。
「あなたは、あなたでしかない。」と言う言葉。
アメリカにはたくさんの移民が暮らしている。その移民の子供は親の出身国の文化とアメリカ文化の間で成長していく。そうすると、成長過程で一時期、自分が何者なのかがわからなくなってしまうことがある。
例えば、アメリカで育った日本人2世の子が自分はアメリカ人なのか、日本人なのかどちらに属する者なのかがわからなくなってしまい、どちらにも居場所がないと感じ孤独に感じてしまうことがある。
そのような時は、「あなたは、そのままのあなたでいればいい」と伝えてあげれば良いという。どこに属する必要もないし、自分の在り方にラベルを付けて型にはめ込む必要もない。アメリカで育った日本人。アメリカの文化も持ち合わせていて、日本の文化にも通じている。アメリカ文化と日本文化の狭間で育った、それをそのままを受け入れればいい。それがあなたをユニークな存在にするのだと。
これを初めて聞いた時に、僕は心がすごく楽になったのを覚えていた。
だからこの友達の話を聞いた時にこのことを伝えた。
彼女は、「そっか、そうだよね。私はわたしだもんね。」と言っていた。
彼女はドイツ人と結婚をして、パスポートの苗字がカタカナのドイツ語名になった。韓国語の名前にドイツ語の苗字が日本のパスポートに書かれている。
彼女はそれを見て、「ますます何人なのかわからなくなっちゃった」と笑っていた。
ベルリン暮らし奮闘中 石岡 廣樹 (せきおか こうき) @KokiSekioka
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