「ここに飾られているのは小説になれなかった物語です」
最初に登場する「図書の塔」にて、そのような説明がされています。
一冊の本となった小説のように起承転結があるわけではない、小説の中から一頁を拾い上げたような物語たち。
このとても短い幻想的な物語たちには、心をゆさぶる魅力がぎゅっとつまっています。
生ぬるい夜に煌めく金の三日月のように、明け方のけだるい杏色の夢のように、神秘的で不思議な光景を見せてくれます。
たとえば、苦し気に翡翠を吐く少年、聡明な竜と美しい娘、ひとりでお茶会を繰り返す娘……。
ひとつひとつが短いので、ぜひまずは一頁読んでほしいです。
短い中に密度の濃い描写があるから、読者の想像力を無限に広げてくれます。
ファンタジー好きとしては、この物語が読めてとても幸せでした。
作者様はとても鮮やかで細やかな描写をされる方です。そして、文中に「情感」「情緒」と言った心をゆさぶるものを漂わせることが、非常に巧みな方です。
これをものすごい才能だと思っていますが、己の言葉では、この「漂う情緒」に触れた時の感動を、うまく言い表せません。
あふれだす情緒に圧倒されながら、ただ胸をときめかせて読みふけっていました。
ファンタジー作品としても、その世界や人物の存在感が圧倒的です。
現実にはあり得ない光景でも不思議とリアルに感じてしまいます。
とにかくすごい作品です。全力で多くの人にお薦めしたいです……!