エピローグ
波瀾万丈なゴールデンウィークを終えた平日。
連休明けで少し
「兄さん、おはよ」
みたいな平穏な一日の始まりを、当然もらえるわけもなく。
視界の先には、今にもキスができそうなほど顔を近づけてきている義妹の姿があった。
「あぁ、おはよう
昨日の朝と展開が同じすぎて、一瞬タイムリープを疑った。
まぁ昨日の夜は少なくとも俺しかいなかったし、夜中か朝に忍び込んできたのだろう。
それはそうと、
「白咲はなんで下着姿なんだ?」
「兄さんを誘惑するため」
想定通りの即答に、俺は頭痛を覚える頭を押さえる。
なぜだろう、(クズ野郎な選択とはいえ)ちゃんと二人の告白に、真摯に対応したのに状況は然程変わっていない。
むしろ二人から向けられる愛情がより濃度を増している気さえする。
おかしい、俺の平穏な日常はどこへ行った。
「それより兄さん、おはようのちゅーは?」
「そんなものは初めからありません」
突き出された唇を手で受け止める。瞬間、掌に湿った温かいものが触れた。
慌てて手を離し確認すると、掌は若干濡れて艶めていている。
「んっ、兄さんの味がする」
舌舐めずりをして妖艶に微笑む白咲。思わずため息が溢れる。
「そら、着替えるから早く出てってくれ」
「ん、手伝う」
「しなくていいから」
「大丈夫、事故を装って襲う」
「どこが大丈夫なんだよ!? しなくていいからな!?」
変態オヤジのように手をわきわきさせ近づいてくる白咲に、俺は身の危険を感じて後退する。
そんなとき、扉がコンコンと軽快にノックされた。
「お兄ちゃん、白咲、朝ご飯できたよー」
入ってきたのは制服エプロンというロマン溢れる姿をした
少しドキッとしつつも、俺は平静を保ち「わかった」と答える。
こうして、早朝の白咲夜這い事件は未遂に終わったのだ。
──が、やはり平穏が続いてくれるわけもなく。
それは朝食の席で他愛もない会話をしていて、二人から告白された日のことが話に挙がったときのこと。
「まさか、キスすることすら計画に入れてたなんてな」
「えへへっ、そしたらお兄ちゃんあたしたちのことすごい意識するでしょ? それにちゃんとキスしたかったし」
「そうか──ん? 今ちゃんとって言った?」
「兄さん、はい、あーん」
「あの、白咲? あーんしてくれるのはまぁ嬉しいけど、露骨に話を避けようとしてない?」
「お兄ちゃん、世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」
怪しいにもほどがある。
なんて不安になるセリフがありながらも、それぞれどんなデートをしたのかや、二人の告白になにを感じたのかといろいろ尋ねられた。
そうして、なにも知らない俺はつい溢してしまったのだ。
「そういえば、告白したあと白咲がバランス崩して、二回もキスすることになるとは思わなかったな」
「にっ、兄さん!」
「え?」
珍しく感情的な声を上げた白咲に動揺していると、烈華が「へぇ」と声を漏らした。
「ふぅん? 白咲は二回もキスしたんだ」
「う、ん……」
「あたしは一回しかしてないのに。白咲は二回もしたんだ、へぇ?」
「う、れ、烈華……」
「そこは平等にって、言ったよねぇ?」
「ん、あぅ……」
突如として勃発した修羅場に、俺はただ黙って傍観することしかできなかった。
そうくだらないことを考えながら、威圧を増していく烈華とみるみる縮んでいく白咲を眺めていると、不意に烈華の目線がこちらに向いた。
宝石もかくやという
「じゃあ今から、その分のキスしてもらおっかな♪」
「あ、そろそろ学校行かなきゃな!」
慌ててリビングのドアを向くも、行動を読まれたのか烈華に回り込まれてしまった。
「だーめ♡」
そして烈華は力強く一歩を踏むと、両手を広げて跳んできた。
チラリと背後を確認するも、いい角度にテーブルがあり回避は不可能。
「んぐっ──」
そうして、連休明け初日から、俺は
……あぁ、早く父さんたち帰ってきてくれないかな。
過ぎ去ってしまった平穏な日々に空しく手を伸ばし、俺は今日も妹たちに振り回されるのであった。
平凡な俺は、変貌を遂げた超絶美少女な妹たちに翻弄される!? ~俺は絶対にえっちな誘惑にも屈しない~ 吉乃直 @Yoshino-70
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