一人の画家

悲しいほどに空虚だった。排水溝に詰まった髪により引き起こされた水面上昇。

足先にぴちょぴちょと侵略を続ける生温かさと非日常に呆然としている。

心情の崩壊。ぼろぼろと何か自分の一部、大切なかけがえのない一部が崩れ去るようでしおれた花のような取り返しのつかない疲れを感じていた。


私の絵は一向に売れなかった。

私は他の画家の作品よりもきっと劣ってはいないはずだ。

なぜだろうか。いくら努力して描いた絵も売れず、マーケットに出店しても売れるのは他の画家の作品ばかりだった。


私は風景が好きだった。雄大な自然。ずっと太古から息づいてきたただそこにあるもの。

風に木の葉が揺れ湖は波立ちざわざわと聞こえる。鳥たちが囀る暖かな日。

太陽の光がキャンバスを彩る。潮風が髪を撫でカモメが魚を食む。

曇りの日、雨の日なら尚更。濡れた土の香り、全体的に暗くなるこの一時。言葉に言い表せられない程の感銘。


私は自然を自分の考えなりに表現したかった。

自然はいつも私の傍に。


今日は海を描いた。漁船がゆらゆらと水平線に揺れていた。

これは売れるだろうか。生活費の少しの足しにもせねばなるまい。

いよいよすべてのものが尽きてきた。


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