静寂
雨が降り続いている。
4時間もの間ずっと雨粒が屋根を叩き、窓は結露を起こしている。
庭先の薔薇は濡れて霧で霞むような風景。
カエルが鳴いている。心地の良い響きだ。懸命に生きている。
連続した柔らかい雨音がまるで私を守っているかのようで、スズランの香りが充満するこの寝室に静けさを与える。
ひしひしとこの冬の雨が私の身を冷やした。
毛布を手繰り寄せてみる。ふわふわしていい匂いのする毛布はいつになっても逆立った神経を撫でおろしてくれた。くるまればすぐに眠ってしまうだろう。
目をそらせば壁際には額に飾られた絵が。窓から差し込む光と壁紙の色味と妙に馬が合い、とても綺麗で。
でも、元はここには別の絵が飾ってあった。
何かの理由があっていつの間にか誰かにより、静物画のこの絵に取り換えられてしまった。
元の絵も雄大で、一つの物語が編み込まれたような不思議な感じがして引き込まれるような絵だったが、私は今の静物画のほうが好きだ。
「坊ちゃん、」
世話係だ。ノックもせず入ってくるなんて。
それにぴいぴいと鳴く燕の雛と似た声、長く聞く分には気が滅入ってしまう。
「もう油画の課題はお済みになったのですか?」
父は私に絵を描かせたがる。
父自身がもう絵が描けないことを悟り、私に描かせている。
課題と称して。
静かな午前だ。何を描こうか。
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