人間アミューズメントパーク

ちびまるフォイ

とめどない探究心と迷惑かえりみない行動力

ある日の朝、目を覚ますと肌の上に小さなテントが張っていた。


「なんだこれ……ミニチュアテント? イタズラかな」


昨日飲み過ぎたのかとテントをちぎって捨てた。

翌日も肌の上に小さなテントがあったのには驚いた。


「今度は飲んでないぞ!?」


すると、テントの入り口が開いて中から小さな登山家が出てきた。

でかいリュックにストックを両手に持っているガチスタイル。


「いやぁーー。これは登りがいのある人間だっぺな」


小人は俺の頭を見上げて言った。

思い切り息を吹きかけて小人を吹き飛ばした。


「なんなんだよもう……」


翌日もテントが張られていた。


「ああもう、いい加減にしろーー!」


テントをつまんで引っ張ろうとすると、

今度はテントがしっかり肌に固定されているのか引き抜けない。

ムリに引っこ抜こうとすると皮膚が引っ張られて痛い。


テントを引き抜くのは諦めて出てきた登山家をデコピンでふっとばした。


さすがにこのままではまずいと病院で肌の上に固定されたテントを見せた。


「なるほど。あなたはどうやら人間山として魅入られたようですね。

 肌の状態などから頭頂したいと思われたのでしょう」


「ひとつもわからないんですけど、なんとかなりませんか。

 毎朝ガリバーみたいな気分になるのは嫌なんですよ」


「一度、頭頂対象として魅入られたら登山家はそう諦めませんからね……。

 とりあえずイライラしない薬だけ出しておきます」


「諦めてるじゃないか!」


かくして登山家と俺との決闘がはじまった。

けれど、いくら登山家を体から引き離してもまた舞い戻ってくる。


「これがヤマの洗礼つーやつか。そう簡単に頭頂させてくれねぇっぺな」


まるで俺がつまみ出すことすらもやりがいのように受け止められる。

しだいにデコピンもかわされるようになり、息で吹き飛ばそうとしても固定して飛ばされないようにと

試行錯誤されてどんどん登山家は距離を詰めていく。


ついに首元まで迫ったとき、もうこのいたちごっこに終止符を打ちたくなった。


「……まあ、頭頂させればもうやってこないだろう」


今この体の上を登る登山家はひとえに頭頂をモチベーションに動いている。

であれば、さっさと頭頂させれば満足して帰ってくれるだろう。


そう思って今度は小さな登山家を邪魔せずに、好きに体を登らせた。


やがて、頭のつむじの中央に立った登山家は嬉しそうに叫んだ。


「やったーー! 登ったぞ――!! この人間を登った――!!」


「はいはい。おめでとうおめでとう」


頭頂記念としてつむじに「踏破」と書かれた木の板を突き刺された。

登山家はゆっくりと体を降りて満足そうに去っていった。


「ああ、よかった。やっと終わった……」


その翌日。騒がしさに目を覚ますと、手首の上に大量の団体客がやってきていた。


「ここが初頭頂人間かぁ」

「こんなのを登ったんだね」


観光客とおぼしき小人たちはわいわいと手首の上で固まっている。

慌てて振り落とそうとするが、頭頂した登山家のようにうまくかわしてしまう。


けして頭頂させてはいけなかった。


「まさか、あの登山家が俺の攻略法をレクチャーしたのか……!?」


観光登山家の団体はかつて登山家が通った道のりを選び進んでいく。


「背中側が難易度の低い場所らしいよ」

「危ない! みんなふせろーー!

「いったん脇側に回ろう」


「ああ、もう! 俺の体を登るんじゃねぇ!!」


壁に背中から体当たりを仕掛けたが、側面に逃げられてしまう。

体のあちこちに鎖で繋がれた杭が打たれて登りやすくなっていく。


「ああ、くそ!! 取りにくい場所にっ!!」


ちょうど手がとどかない辺りに打たれたり、

回避用のルートがいくつも作られたりでますます登りやすくなる。


「やったーー! 頭頂できたーー!」

「やっぱりいい眺めだなぁ」


そうこうしているうちに頭頂されてしまう。

頭頂者が増えれば増えるほど、より登りやすく安全なルートが開拓されていく。


しまいには、足首からやってきた観光バスが乗りつけたり

首元までのロープウェイまで開通されてしまう。


俺の体はアミューズメントパークのように人が押し寄せ、

踏み荒らされることで肌はボロボロになってしまった。


「もうやめてくれーー! 俺の体を放っておいてくれ!!」


体が踏み荒らされ、杭でずたずたにされ、登山家たちのゴミが毛の間に散見する。

俺は限界を感じて風呂の中に飛び込んだ。


頭まで浴槽に浸かり登山家が水面に浮き上がってくるまで、

何度も何度も潜水を繰り返した。


「あ! 出たぞ! 幻の島が出てきた!」


やってくる肌の観光客は息継ぎのたびに浮上する頭に

なんとか上陸しようとしてくる。


シュノーケルを買ってきてずっと水の中に浸かるだけの生活を続けた。


 ・

 ・

 ・


俺の潜水生活がついに実るときがきた。


「あれ? もういないぞ?」


いつもは浮上するたびに好きあらばと押し寄せる登山客がやってきたがいまや見る影もない。


「やったーー! ついに解放されたんだ! 俺は自由だ!」


かつて俺を頭頂した登山家のように喜んだ。

そのとき、クラクラと気分が悪くなって倒れてしまった。


次に目を覚ましたのはいつぞやの病院だった。


「目を覚ましたようですね。風呂場で倒れているまでなにしてたんですか」


「ずっと水にもぐって生活していました。

 でも聞いてください。そのおかげで登山家が寄り付かなくなりました!!」


「そうですか……でも、あなたの体はぼろぼろですよ」


「そうですよね。ずっと水に潜り続けていたんだから

 さすがに体にガタが出てくるのも無理ないですよね……」


「いえ、そうではなく……」


医者は俺の体の内側を撮った写真を見せた。



「あなたの体に観光ダイバーがやってきています」



内臓にはボンベを背負ったおびただしい数の人影が写っていた。

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