最終話

 腹部に喰らった銃弾のせいで、意識が飛びそうになる。しかし、必死に堪えた。視界の隅で符浦栞と坂本杏が戦っているのが見える。あぁ、どうして俺は横になっているのか。考えて一つのことを思い出す。

 俺は能力を無効化させる青い服を着ていたのだ。

 杏は「治って」と声に出していた。しかし、俺の傷が癒えようとはしなかったのは、この服が原因なのではないだろうか。そうとなれば、この服を脱がなければいけない。歯を噛みしめ上体を起こし、上着である青い服を脱いだ。幸いなことに下着は青くない。これまで脱ぐとなると裸にならなければならなかった。

 すると、これまでの痛みが嘘の様に引いていく。そして傷も完全に癒えた。血で汚れた服ばかりはどうしようもないが、とにかく動けるようにまではなった。

 そして、周囲を見渡すと地獄が広がっていた。俺の住んでいた街が燃えて赤くなっている。この戦いによって何が起きたのか理解できずにいた。そんな彼のすぐ近くに、肩口を刺されて虫の息の杏がいた。慌てて駆け寄るも、こちらの声には応えてくれない。ただ息をするだけで精一杯のようだ。彼女の足下には青く汚れたナイフが転がっている。それを拾い上げて、握りしめる。

「……あら、生きてたのね」

 声のする方に向いてみれば、左手から青い血を滴らせている符浦栞がいた。彼女の青髪もが地獄からの熱気で舞い上がる。青い血が地面を青く点々と汚していた。彼女は地面に転がっていた拳銃を拾い上げ、俺に向けた。

「世界が彼女の悲鳴に応えたの……私はね、世界が救いたかったのよ。だから……」

 彼女の目から涙が零れた。引かれた引き金による弾丸は、俺の体を大きく逸れた。俺は強くナイフを握りしめ、地面を蹴った。次に彼女が放った弾丸は、俺の頭蓋を貫いた。しかし、坂本杏の願いは、瞬時に俺の傷を癒やしてくれた。

 勢いのまま、俺の握りしめたナイフが彼女の首筋を切り裂く。吹き出した青い血が屋上に降り注ぐ。彼女の青い髪と血、そして坂本杏の血が入り交じる。

 それでも彼女はまだ死んでいなかった。静かに、しかし力強く言葉を発した。

「……あなたは人を殺したの。もう日常には戻れないわ……私だってそうだった……」

 口から青い血が吐き出される。ドクドクと首筋から噴水のように血が噴き出している。

「彼女の能力はあまりに危険……能力が誰にもバレないということはあり得ないわ……私のような人間が、今後も絶対に現れる」

「そうかね」

「それでも、あなたは彼女の側にいるの?」

「……あぁ、勿論だ」

 彼女の首筋にナイフを突き立てる。今度こそ、彼女が口を開くことはなかった。


   〇


「なぁ、杏。世界を元に戻してくれないか」

 痛みで気を失っていたらしい杏を抱えて、壊れかけの校舎を降りた。外の街は燃え、跡形もなくなりつつあった。しかし、頷く彼女の目が閉じられると、世界が優しい光に包まれ、ゆっくりと元の世界に戻ろうとしているのが分かった。

「あぁ、杏の見ていた世界ってこうなってたんだな」

 杏はこくりと頷いた。変わりつつある世界の中心で、初めてのキスをした。そのキスは血の味がする。

 そんな二人の今後ついては、世界のどこかにいる神様だけが知っている。

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カミサマの殺し方 メモ帳 @TO963

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