第2話

「起きろー!!」


 早朝にヤマバクが頭から被っていた掛け布団が何者かによって剥ぎ取られる。


「ぅぅん……夜行性ですから……もう少し寝かせて……」

「朝早く起こしてくれって頼んだのは何処のフレンズだったかな?まったく、昨日は早く寝るって言ってたのに」

「そう……でしたっけ?」

「ジャパリ科学館に行きたいって言ったのはヤマバクでしょ?」

「……くー」

「寝るなー!」


 ヤマバクは何者かによって肩を揺さぶられて、今度こそしっかりと目を覚ます。

 ヤマバクは一度目を擦って、起こしてきた相手をじっと見詰めてから口を開いた。


「……誰ですか?」

「失礼な!あなたの飼育員だよ!し・い・く・い・ん!忘れたの!?」


 ヤマバクは何者改め飼育員を観察する。

 紺色のショートヘヤー、顔だけ見れば少年のようにも見えるが豊かな胸が女性であることを激しく象徴している。


「しーくいん……さん?あー、居たような……居なかったような?」

「い・た・で・しょ!変なこと言ってるとそのもちもちほっぺを引っ張るから!」

「それは嫌です!」

「なら、さっさと準備して出掛けるよ」


 ヤマバクは飼育員に急かされるままに準備をして家から飛び出した。


 本日の天気は雲1つない快晴。

 絶好のお出掛け日和である。


 ヤマバクは飼育員の後を付いて行きながら、とある事を考えていた。


「しーくいんさん、今日は何処へ出掛けるんでしたっけ?」


 ヤマバクの惚けた言葉にずるっと転びそうになりながらも、飼育員は丁寧に本日の目的地を教える。


「今日はジャパリ科学館に行くって話だったでしょ」

「かがくかん?」

「ジャパリ博物館の方が分かりやすかったかな?ジャパリ博物館を増築して新しく出来た科学館だよ。昨日オープンしたばっかりの」

「そうでしたっけ?」

「ん?オープンは昨日じゃなくて一昨日だったかな?まぁ、どっちでも良いけど」


 その後、バス停からジャパリバスに乗ってジャパリ科学館へと向かう。


「そう言えば、科学館ってどんなところなんですか?」

「“科学に触れてみよう”ってコンセプトで立てられた施設で基礎的な科学実験とか最新の科学技術の紹介や展示を行っているところだよ。色々目玉展示も多くて楽しいらしいよ。ヤマバクの楽しみにしてるアレも中々の迫力みたいだね。話は変わるけど、科学館は元々は作る予定になかった施設なんだ。当初の計画では博物館だけだったんだけど、フレンズが現れるようになって、フレンズの教育の一貫として科学館を作ろうって話になったんだって。でも、その話が上がった頃は博物館も完成間近でね。今更、建物の構造を変えるわけに行かない。だから完成してから別途で増築する事に……って、おーい。聞いてるー?」


 飼育員がバスの中でジャパリ科学館の解説を話しているが、ヤマバクは物珍しそうに窓の外をキョロキョロと見回している。


 本当に聞いているのだろうか?


「聞いてますよ。ジャパリまん美味しいですよね!」

「聞いてなーい!」


 直後、ヤマバクのもちもちほっぺが怒った飼育員の手によってもちもちぺったんされてしまったのは言うまでもないだろう。

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