第5話

「じゃ、改めて今からジャパリ科学館を廻ろ……と思ったけどもう時間がないか」


 飼育員は腕時計を見て時間がないと呟くのに対して、ヤマバクは首を傾げた。


「まだ時間ならたくさんありますよ?お昼にもまだなってませんし」

「いや、帰る訳じゃないよ。じゃ、行こっか」

「何処へ行くんですか?」

「星を見に行くんだよ」


 昼間に星が?

 普通に考えればお昼に星が見えないことはヤマバクでも分かる。

 この飼育員は何を言ってるのだろうか?

 心の中でそんな事を思いながらも、星が大好きなヤマバクはとりあえず騙されたと思って飼育員に付いて行くことにした。


 しばらく、飼育員に付いていくと座り心地の良い椅子がたくさん設置されているドーム状の部屋の中へと案内される。


「ここでお星さまが見えるんですか?天井ありますよ?」

「あ、そっか。ヤマバクはプラネタリウムは初めてだったかな?プラネタリウムは……って、説明するより見てみた方が早いか。ヤマバクはボクの説明をスルーしがちなところがあるからね」

「そんな事はないですよ。たぶん」

「本当?まぁ、いいや。そろそろ始まるみたいだよ」


 始めから薄暗かった室内が暗くなり、中央にある機械が動き始めと、ドーム状の天井に満天の星空が映し出された。


「わぁ……すごーい。天井が夜空みたいです」

「これはあの中央の機械で夜空を再現してるんだよ。ほら、解説が始まるから静かにしよう」


 プラネタリウムに夜空を解説する音声が流れる。

 ヤマバクはプラネタリウムに映し出される星々を目を輝かせながら魅入っていた。


 そして────



「あれが北極星ですから……あっちが双子座で……こっちがデネボラ、アークトゥルス、スピカ!春の大三角形ですね!」

「よ、良く覚えてるね。ボクは北極星くらいしか分かんないよ」


 帰り道、ヤマバクは暗くなった空を見上げながらプラネタリウムで学んだ星や星座の名前を言い当てていた。


「これくらい簡単ですよ!」

「難しいと思うよ……」


 ヤマバクは星を眺めながらふと思った事を言う。


「もっとお星さまに近付けば、もっともっと綺麗に見える筈です!しーくいんさん!山に行きましょう!」


 星が大好きなヤマバクはプラネタリウムでの興奮が醒めきっていないようで、今すぐにでも駆け出していきそうないきおいだ。


「やめとこうよ」

「ジャパリパークで一番デカいあの山に!」

「いや、ダメだって」

「一緒に登りましょう!」

「だから、ダメだって言ってるんだよ!!!」

「!?」


 突然の飼育員の大声にヤマバクは身体をビクりと震わせる。


「あ、ゴメン……」

「い、いえ……ちょっとわたしのテンションもおかしくなっていたので……」


 飼育員は気まずそうに頬を掻いて、今は大きな黒い影となっている山の方を向いてポツリと呟いた。


「……あの山、今は立ち入り禁止になってるんだ」

「どうしてですか?」

「……さぁね?飼育員のボクには分からないよ。まぁ、その内行けるようになると思うよ」

「そうですか……わたしはしーくいんさんと一緒に本物の綺麗なお星さまを見に行きたかったんです」

「そっか。でも、今は山に行けないからさ。また、プラネタリウムを見に行こうよ」

「……でも、やっぱり本物の方が綺麗ですよ」

「良いじゃん。プラネタリウムの方がお手軽だし」

「むー」


 その後、ヤマバクは自宅に帰ってベッドの上にゴロンと寝転がる。

 今日は楽しかったなぁと思いつつ、寝不足のままジャパリ科学館に行ったことを若干悔やんでいた。


「?」


 あれ?

 どうして寝不足のまま行くことになったんでしょうか?


「ハッ!」


 疑問と一緒にヤマバクは昨夜の出来事を思い出した。


「完全に忘れてました……」


 ヤマバクはベッドの端でげんなりしながらも、ベッドの上から下を覗き込んだ。


「あ、あれ?」


 ある筈のものがない。

 ベッドの下に隠してあった木の枝が無くなっているのだ。

 きっと、ヤマバクが寝ている内に飼育員が片付けてしまったのだろう。


「って事はバレますよね……うぅ」


 謝るなら早い方が良い。

 ヤマバクは明日こそ謝ろうとベッドに潜り込んで目を瞑った。

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