第3話

「ふわぁ……ここがジャパリ科学館!」


 館内に広がるのは何処と無く近未来を思わせるようなデザインの様々な展示物。


「よし!それじゃあヤマバクにはイチオシのオススメコースを紹──」


 飼育員がジャパリ科学館のパンフレットを見ながら何やら話始めているが、好奇心を抑えられないヤマバクは飼育員を放って置いてどんどん先へ行ってしまう。


 中身がビリビリしている不思議な球体に、何故か浮き続けてる不思議な磁石、サンドスターを使った不思議な装置。

 見たいものが有り過ぎてヤマバクの目が回りそう。


 好奇心に突き動かされるままに動いていたヤマバクだったが、自身の姿が歪んで写る鏡の前に立ったときに飼育員が居なくなっている事に気が付いた。


「あれ?しーくいんさん迷子になっちゃったんですかね?」


 迷子になったのはヤマバクの方である。

 飼育員を探すためにヤマバクは元来た道を戻り始めたが、興味の赴くままに行動していた為に早速元来た道を外れて進み始める。


 しばらく歩いているとヤマバクは明らかに見覚えのない展示物の少ない通路に迷い込む。


「ここは何処ですかね?えーと……?」


 上に吊るされている案内板には「この先博物館」と書かれている。


「この先は博物館ですよ」

「!?」


 気配ゼロで後ろから急に声を掛けられて、ヤマバクは心臓が口から飛び出るくらい驚きながら後ろを振り返った。


 そこに居たのは何処と無く浮世離れしたような雰囲気を醸し出している不思議な白いキツネのフレンズ。


「きゅ、急に後ろから声を掛けないでください!わたしがウマのフレンズだったら蹴り上げてましたよ!」

「フフ……驚かせてごめんなさい。ところで、先程から忙しなく見回しているようだけど、何か探しものですか?」

「しーくいんさんを探してるんです」

「ああ、迷子になってしまったのですね」

「うん、全く困ったしーくいんさんですよ」

「……ん?」


 白いキツネのフレンズは首を傾げる。

 ヤマバクの言い方では飼育員の方が迷子になっているように聞こえるが、ヤマバクの方が迷子なのではないのだろうか。


「ん?」


 ヤマバクも白いキツネのフレンズに釣られて首を傾げる。


 何やらヤマバクと白いキツネのフレンズの間で微妙な認識の齟齬があったようだが、それにツッコミを入れると不毛な事になりそうだと判断した白いキツネのフレンズはとりあえずヤマバクに提案する。


「しばらく私と一緒にそこのベンチで待ちましょう。待ち人は向こうからやって来るものです」

「……そうですね。一緒に待ちます」


 宛もなく探したところで飼育員は見付からないので、ヤマバクは飼育員が自分を見付けるのを待つことにした。


「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はオイナリサマ、ジャパリパークを守護する守護けものの一柱です。好きな物はいなり寿司、たくさんお供えしても良いのですよ?」


 守護けものと言う意外な大物の登場に普通のフレンズなら驚く筈なのだが……


「自分を様付けしちゃうフレンズは初めて見ました。わたしはヤマバク、好きな物は満天の星空とジャパリまんです!ところで“いなりずし”って何ですか?」

「……」


 守護けものを知らないヤマバクはオイナリサマに対して普通の対応を行う。

 オイナリサマは自身といなり寿司の知名度の低下に若干心のダメージを負った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る