第2話 反骨
田畑に囲まれた緩やかな日常は、甘美な風と共に流れ行く。
形容し難き蠱惑的な彼女は、平凡な生贄を引き連れて祭りへと練り歩く。
静かに、そして緩やかに。
「お嬢さん」
汚らしく屈託のない腐りきった笑顔だった。
彼女は声の主に目を向けた。
老いも若さも忘れたその男はゆっくりと顔を上げ、彼女を見つめる。
「ワタシノトモヲカエシテオクレ」
夕暮れ時だった。
電車の窓に燃えるような橙が映り、閑散とした座席に落胆。
電車が駅に止まる。
アナウンスは無かった。忘れ去られたかのように、少ない客は手元を見ている。
て、んごく、
駅名にしては変わった名前だ。
孤独は恐怖心を募らせる。必然的な笑みが溢れる。
此れを求めていた。
異常なまでの現実との乖離を! 圧倒的な無秩序を!
巡り巡った興奮が私を突き動かした。駅に降りると駅名の書かれた看板を見つめた。
燃えるような陽の明かりが錆に取り付き、赤黒くドロドロとくたびれを映し出す。
「誰も気付く訳がない」
駅員は居なかった。客も居なかった。村の門は開いているのに、誰も行き来しない様は不気味で美しい。
歩いて村の中に入っていくと、劈く匂いに周りを囲まれた。
異臭。死臭。しかしそこに不快感はない。それが不快だった。
「心地良い不快感だ……!」
異物の混入に対して、村人達は嫌悪感を顕にする。
なるべく目に入れないようにしながら、伏せ目がちに村の奥へむかった。
現実との乖離。私はそれが好きだった。
この村もそうだ。全くもって異常だ。それに気付かないことも異常だ。
この村からもその臭いがした。でも、少しだけ甘かった。柔らかいんだ。
ナイフを突き立てるには十分な穴。空白。
村の奥へ行くほど、人家は減っていき田畑が広がる。
振り返ると、今まで登ってきた道が見える。
「もうすぐ山だな……」
山を背に見下げる村は美しかった。
沈む夕日に日本家屋。似つかわしくない美しさに、感動と落胆を同時に覚える。
流れる水は腐らず。閉じ込められたこの村で、景色だけが腐らずに清らかである。
気に食わない。だが、希望でもある。
少し日陰で休もうとして、足を止めた。
陽のあたる場所は彼らの領域。だがこの陰には手を伸ばせまい。
此処に足を踏み入れれば、彼らに目をつけられる。
其れが良い。
快感に目が眩む。私の感情理論が賛歌を携え走り出す。
みつけた
柔らかい肉肌。この異変の唯一の理解者。神の座の奴隷。生贄。
私の唯一の友と成り得る人。
うん。なるべく笑顔で話しかけよう。なるべく気味悪く。
「お嬢さん」
操られた現界 霧中模糊 @mikagirukagiri
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