梅雨空を

梅雨空つゆぞらを心模様に重ねつつ』


**********


今日も雨が降っている。

じっとりとした湿気が、気持ちをまた重く沈ませる。

まるで終わりのない雨の国に迷い込んだようだ、と思う。


何をやっても上手くいかない。

ついてない時はタイミングまで悪く、焦れば焦るほどに緊張で失敗の連鎖は起きる。

注意力は尚更散漫になり、萎縮した心は表情まで強ばらせる。

最近の僕はこんな悪循環を繰り返している。


仕事で、また大きなミスをした。


新人とは、もう言えない歳なのに。

『何年やってるんだ!』の叱咤にひたすら『すみません』としか言えない情けなさ。


このところ日曜日の夜は、いつも憂鬱で仕方ない。

もう辞めてしまいたい、この仕事には向いてないんだ。

これも、何度繰り返したかわからない自問自答。


それでも、何とか月曜の朝には重い足を引きずりながら仕事に向かう。



中学校の三者面談で、担任からもっと上の学校に行けるのに勿体ないと言われた時、『わたしが不甲斐ないばかりに』と俯いて肩を震わせた母を見た時に、もうこんな顔をさせたくないと思った。


だから高校時代、家から学校まで交通費を浮かすために、早朝に家を出て三年間歩いて一時間半の道のりを通った。


予備校にも行かずに現役で合格して、成績上位者の奨学金で大学へと通って卒業した。



一緒に暮らす母は『お母さんに遠慮せずに悔いの残らないように自分の思う通りにやりなさい』という。

『あんたは学生時代も、コツコツと色々なことを積み上げて努力してきたんだもの。なかなかできることじゃない。お母さんは、そんなあんたを尊敬してるよ』と言ってくれる。


『ここまで頑張ってきたんだから、どうしても無理だと限界だと思うなら、辞めたっていいと思うよ。続けることは大事だけど、それだけが全てじゃない。ここまでやってきたことは決して無駄ではなくて、全部あんたの財産だよ』とも。



早くに父を亡くしてから、それでも親子で力を合わせて生きてきた。


僕は一人前というには、まだまだ不甲斐なくて自信が持てない。


だけど……だけど……。


毎年の梅雨を今までだって越えてきた。

梅雨のさなかには終わらないように思えても、雨は止んで眩しい夏はやってくる。



月曜日の朝、僕は浮かない顔をして傘をさして出かけるだろう。

足は限りなく重く、荷物は肩にくい込んでくるだろう。


それでも僕は踏み出すのだ。

僕自身の明日の為に。


梅雨明けの日を信じて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月の欠片をパッチワークにして つきの @K-Tukino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ