子宮で眠る

おもち

歴史

人類の歴史は戦争と共にある。


世の中には二種類の人間がいる。


能力者と非能力者だ。


言葉通り能力者には特別な力がある。


それは人によって様々だ。


火を吐き出したり瞬間移動が出来たりものを動かせたら千里まで見通せたり…。


彼らは優れていた。


だからこそ非能力者は虐げられていた。劣る存在だと使役され痛めつけられ蹂躙されていた。


そんな時代が何百年も続いていたが、戦争が起きた。


能力を持たないものたちはただ虐げられていたわけではなかった。反撃の時を待ち、力を身につけていたのだ。


科学という力だ。


武器を使い罠を張り追い詰めた。


戦争に勝った彼らは言った。


繰り返してはいけない。争ってはいけない。同じ人類として。同じ地球にあるものとして手を取り合おう。


そしてようやく能力者と非能力者は対等な力関係となった。


文化が発達するにつれて明確になったことがある。


国や地域といったものだ。


衣食住、それぞれが独特な色をつけ発展し、言葉も変わっていく。


能力者と非能力者が協力関係にあったからこそ豊かになれたとも言えるだろう。


しかし、人類の歴史は戦争と共にあるのだ。


次は国同士が争うようになった。


利益が欲しい。土地が欲しい。人が欲しい。物が欲しい。


世界中を巻き込んだ戦争だ。


世界大戦は七十年前に勃発し、五年後、収束した。


しかし国同士の戦争、内戦、紛争、冷戦は収まらなかった。


それどころか一部の大国が再び戦争を起こそうと大きく動いたのが二十年前。


「君たちの親御さんから話を聞いたことがあるだろう」


先生はそう言って深呼吸を一つした。


「七十年前の戦争では私の祖父が亡くなった。祖母が話していたが、老若男女問わず戦場へ駆り出されたらしい。戦争に勝った時は喜ばしい限りだったが次第に何故争ったのか分からなくなったと。何を得たのだろうと嘆いていたよ」


教室には先生の声が響き、静まり返っている。


しかし、勘違いしないで欲しい。


集中して聞き入ってるわけでも、衝撃を受けているわけでもなんでもない。


きっとクラスメイトの大半は私と同じ気持ちだろう。


眠たい。


お昼ご飯を食べた後、午後のゆったりとした暖かさ。


いくら人類の悲惨な歴史を伝えられても頭に入ってこないだろう。


「私も、二十年前に従兄弟を失った。瞬間移動のできる能力を持っていたんだが、移動先を狙われて即死だったそうだ。未来予知の能力者がいたんだろう…」


先生の話は耳から滑っていくようだった。


確かにこの国には、この世界には能力を持った人と能力を持ってない人がいる。


子供の諍いなどに用いられたりもするくらいのものだ。


だからと言って自分達が生まれる前の戦争に感情移入なんて出来ない。


お伽話と同じような感覚だ。


「歴史の先生の話、めっちゃ長くなかった?」


「でも、なんか泣けたなぁ。うち、叔父さんが亡くなってるから」


友人たちがそう語る中で私も口を開いた。


「それよりテストの方が心配だなぁ。明日、英語と数学と化学も小テストあるじゃない?」


二人とも慌てたように声を上げる。


「暗記だよね! 自信ないなぁ」


「ミラはなんやかんやいつもできてるよね! 羨ましい」


そんなことないよ。そう言って笑った。


そう、私たちにとって戦争の歴史よりは明日の試験の方が重要だ。


今を生きる私たちは、今の方がよほど問題があると言えるだろう。


「ただいま」


おかえりと言葉を返す彼女は椅子に座っている。


近付いて頭を殴りつけると凍り付いてぼとりと落ちた。


今の方がよほど問題があるのだ。

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子宮で眠る おもち @omochi18

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