※作品は絶対評価という信条で、星の数は適当です。
一昔前の自分、冷静になった今では「なんであんなことにマジになっていたのか」「何をどうでもいいことで深刻ぶっていたのか」と振り返られるものですが、そのときはとにかく真剣だったし、深刻だったのです。
高校三年生のとき、文化祭でたった一人、ギターを持ってステージに立ったのは、バンドを組むような友達が一人もいなかったから。何とも情けない理由で、大して盛り上がりもせず、特に何も変わらなかった。が、あのちょっとした“逸脱”は、悪くない思い出だったと思います。
この小説の主人公義也は、とにかく卑屈。世間にも社会にも人間にも自分にも失望して、“上手くやる”ことだけを考える。つるむ相手にも内心ではクズだのカスだのディスを重ねて、その実でそんな場に迎合する自分自身をもディスる一人どつき漫才のようなことを常にやっている。
考えすぎるほど考えて、人間の観察眼には鋭い部分も見えるのに、オチの付け方が童貞か性器かケツの穴しかない。自分の小さな世界から決して出ようとしない男の独白は、卑屈過ぎて下らな過ぎて面白いです。どんなクズにも一分の愛らしさ。作者のセンスを感じます。
そんな義也が、ある日やらかした“逸脱”から、ストーリーは転がり出します。傍から見たら全然大したことじゃない。なのに劇的。「クズであるよりも、単純なバカでいたい」そう思わせてくれます。
軽妙過ぎる文体は、人を選ぶでしょうが、誰もにあって、誰にもない物語です。
※ここまで、第八話くらいまで読んだ感想です(記憶が曖昧)
※ここから、最終話まで読んだ感想です。
もともと、この小説が目に留まったきっかけはキャッチコピーの『俺たちは荒野を進む、迷いながら、確かめながら』という文句が、大好きなバンドの歌詞に似ていたからです。
俺たちは人間なんだから、何があろうとジリジリとキリキリと歩いていくしかないということを歌った名曲でした。
この作品、はっきり言って歯切れが悪い結末です。一応のハッピーエンド。という見方をしました。
作中の時間としては、ほんの数か月の出来事です。そこに至るまでの過去が、たくさんのすれ違いと痛みと生み、それらがこれからも大なり小なり続いていくことを感じさせる、そんな物語でした。
第一作に作者のすべてが分かるなんて話があったりなかったりしますが(適当)、これが作者の方にとっての最初の小説だそうです。
歩き続ける主人公たちと同じく、書き続ける姿が正しいのだと、そう思います。