第26話 第一章エピローグ

「オオッー!すげぇー富士山バッチリ見えるじゃ~ん!イヤー……これは絶景かな、絶景かな!」


 背伸びからの深呼吸で、たっぷり新鮮な空気を全身に巡らせてやった。

 俺の体内よ、有り難く思え。

 霊峰パワーも戴いているようで、生きてる実感が込み上げて来るぜ。


 俺は現在、茶坊爺が持っていた茶碗を伊奈忠順公のゆかりの神社に納めた後、富士が見える道の駅に立ち寄って、ドリンク片手に休憩をしている所である。


 富士の噴火から一ヶ月近く経った。

 あれから噴煙は収まり、今は静穏せいおんな状態が続いている。

 でも、まだ安心は出来ないと言うことで、登山規制はされたままだ。

 今年はこのまま一般者の登山は出来ないかもしれないな…


 だが、その方がいい。

 愛鷹の話だと、まだ闇興会は密かに活動しているらしいのだ。

 しかもその中にヤミオコシを復活させた張本人が居る。

 つまり其奴は強力な魔法使いだという事だ。

 公安やサイバーポリスの目も巧みに掻い潜って布教活動をおこなっているらしいので、信者を集めたら又S級クラスの怨霊を復活させて富士山にちょっかいをかけてくる可能性が高い。

 早く其奴が捕まれば良いんだが…

 まぁそれまでは警戒しとくのが得策だ。


〝パピロリーン!パピロリーン!〟


 携帯にメールが入った。


 うむ。差し出し人の名が無い。なら、あの人だろう…


 恐る恐る開いて見ると『まだかな~…チラッ』という絵文字入りの短文が…

 やっぱり…モモメさんからだ。

 メールアドレスを教えた覚えが無いのに毎日送られて来る。

 俺にプレッシャーは逆効果なのに…分かって無いな…フフッ…


 あれからチャミさんやモモメさんの事を記事に書こうと、一旦は考えた。

 けど結局頓挫している。

 愛鷹達が止めたのでは無く自粛したのだ。

 もし書いた事によって、彼女達の使命に支障をきたす事に成らないかを危惧したのである。

 確かに彼女達の事を世間に知らせて、もっと皆から感謝されるべきなのだとは思う…思うのだが…

 それは果たして彼女達が望んでいる事か?

 そして本当に世間は感謝するか?

 何か国が囲っているから「富士を守って当然だろう」って、思われそうな気がする…


 いや、これ、実は俺もそうなのだが、税金を払ってるのだから政治家や警察とか公の人は国民を守って当たり前だと、世間の過半数以上の人は思っているのではないだろうか。

 多少感謝の気持ちは有るが、実際に助けてもらった時位しか頭は下げないだろう。

 特に俺は仕事柄そうなのだろうが…

 その事は今回の件で俺は少々反省した。


 まぁ正直、国がやってる事に不信感を抱えてるんだよな…

 いや、記者はそうで無いと駄目なんだけどね…

 けど、俺みたいなのが一人イキがっても、事件は何も解決しないのは痛感したわ。


 それを考えたら魔法使い達に面識も無い国民の中には、特別な待遇をされて国に囲われている者に不信感を持ったり、妬みなどの感情が芽生えてもおかしくないし、敵視してもおかしくない。

 もし今回の事件も大規模な噴火だったら「お前達のせいだ!」と、責任を押し付けて非難してくる人もいるだろう。

 それに便乗して反発してくる団体も現れると思う。

 それこそ現代版魔女狩りだ。

 自分では推し量れない不可思議な物に対しての強迫観念から排除しようとする者も必ず現れるだろうし、それこそが茶坊爺が懸念していた事かも知れない。


 だから俺が記事にして魔法使いの存在を証す事は、下手したら彼女達魔法使いしか出来ない役割をも奪い兼ねないので有る。


 平和ボケした世代の甘っちょろい個人的な考えかも知れないけど、今はまだ彼女達の事は伏せておいた方が世の為、人の為だと思う。

 いづれ時期が来て、政府から発表される日が来るのかもしれないが…


 さて…そうなると、魔法使いの存在を隠しながらモモメさんとの約束の『世界中の人達に大自然に対する畏怖、畏敬の心を芽生えさせる』を遂行しなければならない事に成る。

 文化や宗教の違いという枠を乗り越えて、『魔法使いの存在』という切り札も使わずに、魅力と説得力の有る文面だけで世界中の人に理解してもらう。

 ………

 いや~それは流石に神様でない限りは無理だろ…


 でも正直どうなんだろ?

 世界中で一応は、エコエコ言ってるから、大自然に対する畏怖、畏敬は少なからずとも皆持っているのでは無いだろうか?

 いや、人間の為の環境の配慮は考えても、自然の立場に成っての配慮は難しいかも知れないな…


 そりゃまだ哺乳類とかなら何考えてるかは、行動や鳴き声でそれとなく分かる部分が有るけど、虫や植物や微生物とかはな…

 ましてや地球様が何考えてるなんか全く見当付かないわ。

 人間の中ですら「ほんとコイツ心あんのか?」と疑う位に何考えてるのか分かんない奴も居るのに…


 そうだよ…心だよ…

 万物に人間のように心が有ると意識しないと、大自然に畏敬の念は抱かないだろう。


 縄文時代の人達は本当に万物の気持ちが分かったのかな?

 いや、分からなくても人間の思考に当てはめて、気持ちを考えてあげてたのかも知れない。

 物や自然も、魂の部分は人間と一緒なのかも知れないしな。


 俺は今回、魔法使いの方々に、人形自然に魂が有る事を教えてもらった。

 魂の存在を科学で証明出来ないから否定する人が居るけど、それは〝愛〟だの〝勇気〟だの形の無い物を全て否定するのと同じ事だと思う。

〝未来〟という現段階では存在しない物を俺は否定したくない。

 人間が想像した物は、少なくとも想像した時点で存在は成立していると俺は考える。

 万物に魂が有ると意識して、そこに愛や夢や尊敬を注ぎ込み、共に助け合ってこそ良い未来が築けるような気がするのだが…


 な~んて感じで書いたら、少しは世界に伝わるだろうか?

 でも、物や自然に魂が有る何て事は、信じられない人にはやっぱり信じられないだろうな…

 それに俺はこんな悟りきった仙人みたいな記事が書けるほど、立派な人間では無いわけで…

 一応悟り世代なんだけどね。


 うん、やっぱりモモメさんの御機嫌を取りながら『大自然に対する畏怖、畏敬』の掲載はだましだまし引き延ばそう。

 編集長も可能な限り延ばして魔法使いさん達との交流を永く保つ方が、ちょこちょこスクープに有りつけるので、その方が会社のお得に成ると言っていた。


 今、巷で噂に成っている噴火前に現れた空飛ぶ天女や、噴火後に現れた二体のダイダラボッチの写真は、ボカシては有るがちゃっかり我が社は記事にして掲載している。

 編集長がアルバイト記者を派遣して、遠くから撮影していたのだ。

 団塊世代のオッサンのやる事は実にセコい。


「さて…そろそろ行きますか…」


 かくして、休憩の終わった俺は今から樹海に向かう訳である。

 本日のメインイベントだ。


 実は昨日、俺がチャミさんにプレゼントしたあの鳥のマスコットが部屋にやってきた。

 嘴に手紙を添えて…


 内容はこうだ。


『ドウル君、明日暇ならもう一度秋葉原に連れて行って欲しいっチャ。まだ約束のガンシュー教えてもらって無いっチャ。あと、ついでにドウル君が可哀想なので、チャミが一緒にプリクラ写ってあげるっチャ』


 迎えに行かざるを得まい。

 どうやらチャミさんは人形だけでなく、人間も操れるようだ。

 但し、俺みたいな単純な奴に限る。


 さて…犬養さんとカンスケの警備をどう突破しようか…


 俺は作成を考えながら展望台を降りて、土産物屋に立ち寄った。

 富士のマスコット人形の付いたキーホルダーと豆腐を買ってから駐車場へと向かう。

 車に乗り込む前に今一度富士を見たら、何か微笑んでくれてるように見えた。

 俺はその場に立ち止まり、山の方に向かって人目もはばからず大声で叫んだ。


「一緒に素晴らしい未来を造りましょー!!よろしくお願いしまーす!!」


 これからもずっと共に生きていくであろう大自然様に、俺なりの畏敬の念を示した。

 そして愛車に乗り込んでエンジンを掛け、雄大にそびえ立つ富士を横目に、俺は一路緑の海原へと向かう…


 そこには今日も人知れず富士を守る、魔法少女と人形達が待っている…




 第一部 完

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【継承五千年】樹海の魔法少女は今日も雛神で富士を守る 押見五六三 @563

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