第2話 「本」「オアシス」「伝説の幼女」

狐雪は「本」「オアシス」「伝説の幼女」を使って創作するんだ!ジャンルは「学園モノ」だよ!頑張ってね!

 #sandaibanashi

 https://shindanmaker.com/58531


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 のどかな日差しの差し込む昼下がりの教室。

 四限目の数学の授業が行われているこの教室は、ただならぬ緊張に包まれていた。

 いつもは何人か机に突っ伏している頃合いだが、今だけは全員が固唾を飲んで前を注視している。

  黒板の前には、少女が一人。つま先で立ちつつ腕を大きく上に伸ばし、生まれたての小鹿のように全身を震わせながら懸命に数式を描いている。

 少女の伸ばしたか細く繊細な手先は、それでも黒板の半分にも届いていない。しかし、そのひたすらな姿にただただ魅了され、教室中の生徒は――黒板の横に控える先生までも――眼を離すことが出来ずにいた。

 世界で動いてるものが少女以外に存在しないかのような、一瞬にも永遠にも思える静寂。

「終わりました」

 それを破ったのは、銀の鈴のように澄みきった少女の声だった。

 静かな水面に降り始めた雨のように、教室中が拍手に満ちていく。

 少女がチョークを置き、ゆっくりと振り返る。そして一曲を終えた舞姫エトワールを彷彿とさせる優雅さで一礼すると、拍手は一段と大きくなった。

 幼子のようなその体躯と婉麗たるその所作とのミスマッチが、まるで少女がこの世のものではないかのように錯覚させる。『伝説の幼女』という呼称も過言ではないと言わせるだけの説得力がそこにあった。

「美しい」

 少年は思わず呟いた。彼は少女の隣の席の幼馴染だ。

 少女とは十年来の付き合いだが、最初に会って以来ずっと彼女に夢中だった。少女は少年にとって、まさに『日常という砂漠に潤いを与えてくれるオアシス』なのだ。

 ただ、少年には彼女に思いを告げる勇気がなかった。彼女を独占したいと思いつつも、伝説と呼ばれる彼女と自分が釣り合うのかという思いに苛まれ、何も言い出せないまま幼馴染の立場に甘えていた。

 しかし今日、ついに彼は勇気を振り絞り、長年の思いに区切りをつけるべく彼女に告白を









「しねえよ」原稿用紙の束をゴミ箱に放り込む。

「えええええ最後まで読んでよー!」

「いやいや最後まで読まなくてもダメだろ。 こんな駄文はとても製本させられねえよ……というかむしろよくここまでナルシズム全開で書けたな」

「君からはこう見えてるかなって」

「想像力働かせすぎちゃったかなーやり直し」

「もー厳しいなぁ」

 文芸部の伝説の幼女様おさななじみは口を尖らせつつ新しい原稿用紙と向き合うと、しだいにうめき声を上げ始める。

 ――まあ……『日常のオアシス』だけは合ってるか。

 頭を抱えて転がる小さな背中を見て、俺は心の中で呟いた。

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三題噺アラカルト ユキ @yuki-vlps

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