トマトとトンガラシ

紫 李鳥

トマトとトンガラシ

 


 ある晴れた日、とある畑にトマトとトンガラシが並んでぶら下がっておりました。


トマ「わたしも赤くなったけど、あなたも赤くなったわね」


トン「君に恋して赤くなったのさ。赤くて細身のおいらは嫌いかい?」


トマ「好きも嫌いも、わたしたち親戚じゃない」


トン「げっ! ふっくらトマトとスリムなおいらが親戚だと?」


トマ「そうよ。あなたは唐辛子。わたしの別名は唐茄子。つまり、わたしたちはナス科の血筋よ」


トン「なぬう? ナスカだと? あの、地上絵で有名な?」


トマ「それはペルーのナスカでしょ? わたしが言ってるのは、ナス科」


トン「あっそ。……って、どっちも同じに聞こえるじゃん」


トマ「だって、発音が同じだもん。字が違うだけで」


トン「あっそ。……親戚だったとは、恐れ入谷の鬼子母神でい」


トマ「……何、それ」


トン「いや、別に。単なる独り言でい。に、しても、親戚だったとはな。……ん? じゃ、もしかして、おいらに似てるシシトウも親戚?」


トマ「そうよ。正式名を獅子唐辛子。トンちゃんは辛いけど、シシトウは甘味種。どっちかって言うと、ピーマンに近いわね」


トン「エーーーッ! じゃ、あのピーちゃんも親戚なの?」


トマ「そうよ。それにジャガイモも親戚よ」


トン「げっ! ジャガちゃんも親戚? マジで? おいらたちと似ても似つかねぇな」


トマ「確かに。わたしたちと違って地下茎だし、色も形も類似点なし。でも、親戚なのよ」


トン「へえー。……それにしても、トマちゃんもジャガちゃんもいいよな、もてはやされて」


トマ「何が?」


トン「だってそうじゃねぇか。トマちゃんはパスタやサラダに引っ張り凧だし、ジャガは肉じゃがやサラダに引っ張り凧だ。

 おいらの出番なんか、滅多にありゃしねぇ。せいぜい、キムチぐれぇか? 時々、ソバやウドンにフッかけられて、チッ、かれー、ペッ! ってされんのがオチでい。

 あ、そうそう、足があったまりますよ~、なんて宣伝文句で、靴下に混合されたり。ったく、臭いもん関係ばっかだ」


トマ「あら、わたしだって、ミニトマトのほうが栄養価が2倍とか、包丁いらないから、とってもお手軽よ~、って理由で、わたしより重宝がられてるわ」


トン「……トマちゃんにもそんな悩みがあったんですかい。話はしてみねぇと分からねぇもんーー」


トマ「キャーッ!」


トン「トッ、トマちゃーーーん! ……くぅぅ、いきなり、もぎ取られちまった。寂しいなーー」




トン「グ~グ~……ハッ! ン? なんだ夢か……そりゃそうだな、夏の季語のトマちゃんと、秋の季語のおいらが会えるわけがねぇ。

 だが、可愛いトマちゃんと話ができて、いい夢見たな~。

 ン? ちょっと、何すんねん! ぃ、ぃ、ぃ、痛っ! ン? ……お、おいらもかーっ! てか、まだ、秋じゃねぇじゃん! た、助けてーっ!」




 なんだか訳が分かんねぇが、そろそろendー豆か?

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トマトとトンガラシ 紫 李鳥 @shiritori

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