第4話鬼の母

母親の記憶と言うのが、正直に言えば…あまりない。釣り道具をしまって、相手の反応を見る。その事がわかったのか…なんとなく気まずい。断罪された養母と暮らして居たのが、兄の栄だったらしいが、兄に重大な秘密があった。大奥総取締の絵島様との関係等訊かれたが、俺自身その事にとんと興味は無し、そもそも何故兄が、絵島様とどんな関係があるのかさえ、匿ったと言う者達は教えてくれなかった。利用しようとする魂胆が見え見えで…到底信用等出来る関係ですらなかった。母親がどんな鬼女でも…まあ俺の親だろうとは思っている。兄の栄が唯一守ろうとした話は、俺を保護した文吾の名乗り出られ無い親戚から聞いて居る。こちらの方は、正真正銘の盗賊だった。兄そのものが謎の多い人だってわけ。料亭の嫡男だったと言う話しも俺は半分くらいで聞いて居る。兄が話した訳では無いから。略全ての出来事を疑って俺は生きて来た。母親が罪人であると言う事以外事実は無いと思っている。本来なら、吟味方の同心になる等、あり得ない事だった。



「確か…速見殿の養母様は川越でしたね?文吾殿の父上は川越から日光に移動になったとか?お話を聞いて居ませんか?」



文吾の父上か…栄転とは名ばかりに、煙たがられた末日光の寺に……あの方は其所で大人しくして居るとは思えないけど…ね?



文吾の父上を見たら、この男はどんな感想を漏らすだろう?五歳しか違わない父上を見たらの話だがね?金谷家の養子に入って金谷文吾なんだけど…。お父上が中々のお人だよ。お前さんが言っているのは、まあお父上ではなく文吾の叔父上って所かね?子どもが…子どもを守る為に考えた奇策だけど…後ろ楯に大人が存在しなければ、どうしようもねぇんだよ。脇坂様が隠密の家系に入ったなら、兄の情報が掴めはしないだろうか?俺はそんな事を考えている。兄を養子とした女の目的が…どこにあったか知りたい。それには、罪人として消えた母が何者なのか手掛かりがある、そう表に出られ無い文吾の親戚?が教えてくれた。叔父さんは、全部始末するらしいがね?消される前の抵抗何て冗談じゃなかった。だからこいつの母親と組む事にしたわけなんだが…既に亡くなっていた。脇坂様が見つけてこっそり運び出した腐乱死体は?哀れなこの男の母親だと言う所だろう?か?



「ああ、母上が小石川から…文を寄越してくださいまして…。速水殿に見て頂けと文吾殿が申したので…持って参ったのでした。最期の方がなにやらはんじもの見たいで?速水様ならわかるやも知れぬと言われたものですから…?つい、失礼しました!もう亡くなっておいでだとはすっかり忘れて居ました。」



中身は、哀れな黒塚の鬼女の話が長々と書かれている。最愛の娘を殺してしまった母親は、鬼と成るしか道がなかった様な陰気臭い話だよな…?判じ物とは?どんな意味だろう?いや…待て娘?鬼女は主の為に知らないで、娘とお腹の赤ん坊を確か黒塚では…そう言う話か…。考えている間に、時間の空いた脇坂様が合流した。



「速見殿の謹慎がもう少しで解けそうだとか?吟味方で何やらざわついて居ましたが?何かお聴きでしょうか?脇坂様は何か知りませんか?」



顔色一つ変えず脇坂様は、惚けて見せた。



「後ろ楯がはっきりしない家は吟味方としても難しいのだろうが?本来速見殿が吟味方に入るのは、与力殿の推挙だったとは聞いていたのだがな…?どうも邪魔が入ったのは、本当らしいぞ?」







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花鬼 くのいち @cnoiche

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