第18話 公爵令嬢
アリューと≪ファイヤーボール≫を試してから村へ歩いて帰っていると、後ろから豪華な箱状の馬車が僕たちを追い抜いて行った。アリューに尋ねると、祭りの時期は領主家の貴族の内、誰かが祭りの様子を見に来るそうだ。この時期は領主領の上を
棒立ちだったアリューは慌てて片膝をついて「サートリアル家の方もご機嫌よろしいようでなによりでございます」といい頭を下げるので、僕もアリューに倣って膝を地面につけて「ご、ごきげんよう」と続ける。
ごきげんようなんて初めて使ったし、アリューが言ったのはサートリアルだと思うけど、間違うと失礼に当たると思って、言うに言えなかった。
「大丈夫よ、立って楽にしてくださって構わないわ。私はパウラ。そちらの方は教会のご関係者かしら?」
教会?アリューのことかな? と思っていると、アリューに
「あ、いえ、この服は貰い物で、えっと、少し前に人を助けた時にいただいたものです。私はコウといいます。ただの旅人です」
「そうなの。教会っぽいデザインの服ですけど、その服はおそらくとても高価な物よ。よっぽどその助けた人は偉い人なんでしょうね」
ええ、助けたと言いきっちゃうのは抵抗あるけど、この世界を創った神様で、服を貰ったのは天使さん兼地上での神様です。
「ご身分はわからないのですが、いろいろと高価なものをいただいたみたいです」
「それに肩に乗っているその子。ブルーアラートよね?私も王宮でしか見たことないわ。エルグランデに住んでいて地上にはめったに降りてこないし、危険を察知する能力がとても高いから、捕獲するのも大変だけど、人に慣れてもらうのはもっと大変だから、お金をいくら積んだって手に入れられるものじゃないのよ?その子もその人から譲られたものよね? 」
「はい」としか答えられない。ライネがそんな高価というか価値の高い鳥だったなんて。出会ってすぐに指に乗って、肩に乗って、頭に乗って、ってしていたから、手乗りインコか文鳥みたいなものだと思っていた。
「一体どんな方を助けたのかしら。普通は命の恩人でもそこまではしないわ。コウの話を聞かせてくれる? 」
「いぇ、別段大したことはしていません。……道で怪我をしていたその人の治療をして、街まで送ったくらいです」
その場で話をでっち上げて答える。治療が咄嗟に出てきたのは、僕がこれまで治療を受けていたからだ。
「そう、いえ、いいわ。これから村に行かなくてはいけないから、また明日にでもお話聞かせてね」
パウラはそう言って馬車へ戻っていった。パウラの後ろに控えていた騎士は、先に馬車へ駆けていき、馬車のドアを開けて待っている。
「では、ごきげんよう」
少し距離が離れているが、よく通る声でパウラはそう言って馬車へ乗り込んでいった。
アリューは隣で大きなため息をついて「よかったぁ」と言っている。領主家の人と話すのはこれが初めてで、普段領主家から派遣された貴族は村長に接待されて、失礼がないように基本的に村の人は接触しないよ、とアリューは言う。パウラはさっきの説明であまり納得してくれなかったみたいだけど、とりあえずこの設定でいこうと心に決めた。
◇◆◇◆◇◆
~パウラ視点~
ガラガラと馬車を進める音が聞こえる中、御者から高貴な服を着た者の脇を通ったと告げられた。
領地ではあれど、馬車で2日かかるこの村へ来た理由は年に1回のお勤めの為だ。エルグランデが頭上を通過する日に村や町では祭りが行われるし、自分が住むこの国で3番目に大きな都市、サートリアルでも大々的な祭りが開催される。このカール村からもう一つの村を回って、サートリアルに帰ると、一年で一番賑やかな都市が見られる。サートリアル家は公爵で、この国の第3都市を担うだけの格もあり、王族さえ訪れ、エルグランデの到来を祝う。
わざわざサートリアル家が各村を回るのは昔からの決め事であることと、村の規模や在り方をサートリアル家の跡継ぎ候補が見て回るため、そして数年に一度くらいの頻度で起きる、エルグランデを追ってきた魔物などを一緒に騎士を派遣して村に被害が出ないようにするためだ。馬車に同席している既に鎧を着ているクリムと今御者をしているゲインが今回派遣された騎士だ。
ゲインに馬車を止める様に告げて、クリムに挨拶をするから同席してほしいと伝える。外に出てみると確かに青が美しい服を着た少年がいて、隣には村人であろう少女がいる。そして少年の肩にはブルーアラートが留まっていた。以前王宮で陛下にお目通りした際、陛下の隣に鳥かごが吊るしてあり、失礼にならないように聞いたところ、危険を察知することが得意な鳥だ。と簡単に答えられた。それから気になって調べて、非常に希少な鳥だったと知る。
そして会話の流れで聞いてみると人助けをしていろいろ貰ったものだと答えられて、私は内心呆れる。その服の価値はサートリアルでも、一家5人が1年なにもせずに食べていけるほど、この村なら10人はいけるだろう。まして、ブルーアラートは100人でも200人でも食べれるだけのお金を出す者だっているだろう。そんな非常識な価値のモノを貰ったと告げる少年はおそらくなにか嘘をついている。その何かが気になるが、この場で突っ込んでも警戒されるだけだろう。少年と少女に別れを告げて馬車に乗り込むとゲインは馬車を走らせ、クリムが私に話しかけてきた。
「あの少年が気になりますか」
「いえね、気にはなるけどあの子そのものじゃないのよ。あの子はきっと何も入っていないパンよ。バターもパン種も、塩さえも。なんの味もしないパン。だからクリム、あなたが気にすることは何もないわ」
私はそうクリムに告げて、もう言うことはないと主張するために、話を切って馬車の外を見つめる。
夕暮れは盛りで夜はもう近い。
神の箱庭管理代行 VR脱毛 @vrdatumou
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