タッチダウン (原稿用紙5枚 1話完結)

CHARLIE

タッチダウン

 そのころその星では、生きものたちがパニックしていた。

 始めは、

「未確認の物体が夜空に小さく見える」

 という程度で、生きものたちは珍しがってそれを眺めていた。

 やがて、

「あれは隕石かもしれない」

「この星を直撃するコースを取っているようだ」

「あれがこの星に衝突したら、生態系に大きな影響を受けるだろう」

 だんだんと生きものたちは悲観的になった。

 しかし事態はもっと深刻だった。

「あれは隕石よりずっと大きなものだ」

「隕石ではなく加工物のようだ」

「この星に生命体がいないと思い込んでいる異星人の探査機のようだ」

 やがてそれが着陸すると予想される地点が明らかになった。

 その付近に住む生きものたちは、避難することになった。


 それは予想よりずれた時点に着陸した。

 落下速度がゆっくりだったために、生きものが犠牲になることは免れた。

 しかし。それは地表に留まりつづけ、生きものたちは不気味な気持ちをいだいたまま暮らしていた。

 科学者は、地表に居座るそれを研究した。

 間違いなく、異星から意図的に着陸させられた探査機だと判明した。

 探査機の発信源までは突き止めることができなかったが、科学者たちの調査の結果、同じ恒星系のある惑星からやって来たものであることだけは間違いないということまではわかった。

 その星の生きものたちは、腹を立てた。

「この探査機を送り込んだ星の生きものたちは、自分たちだけがこの星の生きものだと思い込んでいるに違いない。なんと傲慢な生きものなのだろう」

 その星の生きものたちは、近くのいくつもの星の生きものたちと通信をおこなっていた。

 探査機が送り込まれた星の生きものたちは、自分たちが置かれた状況を、通信できる限りの星々へ送信した。それを受信した星々は、別の交流のある星々へさらにそれを広めた。

「この恒星系には、ずい分と傲慢で、好戦的とも言える生命体がいるようだ」

 すでに異星間通信がおこなえるだけの技術を持った星々のあいだで、それは定説になった。

 そして、被害を受けている星へ、たくさんの星々から、救助隊が派遣された。


 それから何度もの自転ののち、その人工物は、突然その星の地下に向けて、強い衝撃を与えた。

 惑星の表面には穴があいた。

 地下に暮らしていた生きものの多くが死滅したことが確認された。

 よその星から救助に来ていた生きものたちも、そのときの地面の強いゆれを感じた。

 地面を掘削されたことで、地下から溢れ出て砂塵は、星の大気組成を変えてしまった。科学者たちは、この組成がもとどおりになるまでには、数百公転かかるだろうと計算した。

「もうこの星に生きものが暮らすことはできない。移住をしたほうがいい」

 科学者たちはそう結論づけ、救援に来ていた星の生きものたちは、進んで、自分たちの星へ来てもいいよと提案した。

 その星の生きものたちは、ふるさとから離れたくはなかった。しかし大気組成に生命活動が合致しなくなってしまっては、そこに残ることは不可能だった。

 彼らは散り散りに、同じ恒星系のほかの星へ移住していった。


   ***   ***


「史上初の小惑星への着陸!」

「史上初の小惑星の地下への爆発」

「人類誕生の秘密を明かす道がひらけた」

 その星のなかでは、星中が、それを明るいニュースとして報じられ、疑問視する声を取り上げるメディアはない。

 批判的な意見は排除された。情報統制が為されていた。


 その星は、それから何百公転経ったあとも、同じ恒星系内の探査をつづけ、先住者たちに移住を強いり、その都度危険な生きものだと恒星系内の生きものに危機感をいだかせた。

 当然、年百公転経っても、彼らとコンタクトしようとする星はなく、彼らが望めば望むほど、孤立を深めて行くのだった。


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タッチダウン (原稿用紙5枚 1話完結) CHARLIE @charlie1701

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