第2話

「盛り付けなんてどうでもいいんだよ。肉持ってこい、肉!」


 食堂のど真ん中で、顔のど真ん中に傷跡がある大男が怒鳴り散らした。


「こちらをお召し上がりいただければ、少ないお肉でも栄養バランスはすばらしく……」


説明するルルメールの言葉を、怒鳴り声がさえぎる。


「バランスなんてどうでもいいんだよ。ライフの回復に必要な精力をつけるには、肉だ肉! 骨付きのでかいやつを頼むわ」


「今からご用意するとなると、少しお時間をいただく……」


「これ以上待たせるって言うのか? もういい。別の宿に行くことにするわ。こんなお花畑な宿じゃ、落ち着かないしな」


「ちょ、待ってください! なるべく早くご用意を……」


「だから、もういいって言ってるだろ! 面倒くさい」



 大男が勢いよくドアを閉めると、入口に飾ってある花が散り、床が花びらだらけになった。


今日やっとゲットできたたった一人の客が出ていってしまい、ルルメールは涙目でほとんどの食材が残ったままの食器を片付ける。


「どんまいだよ、ルル。どうせ冷やかしで入ってきたんだからさ。――それにしても、今日は女性が見当たらないねぇ」


 調理場から、白髪頭をのぞかせた老婆は、この食堂の調理を一手に引き受けているマルグール婆さんだ。両親の代からずっと手伝ってくれていて、その両親亡き後も好意で残ってくれたのだった。


「うん。どうやら魔の山にゴブリンが大量発生したらしくてね。あれは退治ポイントが低い割にけっこう面倒な種だから、女性には人気がないからねぇ」


「魔王はどうしてるのかな。ゴブリンってあまり命令聞かないんでしょ?」


「まぁね。でも第一陣戦闘要員としてはけっこう重宝してるんじゃないかね。多産だし、成長も早いし。それに魔王を心配する余裕なんてないだろ」


「そうだけど……。最近、魔王って別に悪いことしてないんじゃないかなって思うことあるんだよね。攻撃されるから反撃してるだけって感じで。それに彼がいないと、この町も終わっちゃうし」


「あんたは昔のことを知らないから……」


そう言って、マルグール婆さんは身震いをした。

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ルルメールの宿は今日も開店休業。 八柳 梨子 @yanagin

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