第1章「ギフテッド」17

「悪かったな」

 教会を出て開口一番隼人は裕輝に謝った。

「大丈夫です。と、言っても何が何やらわかりませんけど」

「お前、さっき何考えてた」

 隼人はタバコに火を点けると歩き始めた。

「何をって言われてもあの人の「手が柔らかい」としか」

「違うだろ。お前がお前を殴ってた時の話だ」

「いや、その時も別に変わったことは。ただ「自分を殴んなきゃ」としか」

 裕輝は自分でそう言って首を傾げる。

「ん? おかしいな、何で僕はそんなことを……」

「それがあの女の『才能ギフト』だからさ」

 裕輝は目を丸くする。

「あの人も『ギフテッド』だったんですか」

「ああ。それも飛び切り質の悪い『才能ギフト』を持ったな」

「どんな『才能ギフト』なんですか?」

 そう言った裕輝は隼人に睨まれた。

 裕輝はビクッと身体を震わせる。やはり彼に睨まれると滅茶苦茶怖い。

「すぐに他人に聞くな。自分で考えたか?」

「いや……」

「『才能ギフト』を使われると不自然が生じる。あり得ないと思うことをやってのけるのが『才能ギフト』だ。じゃあ、聞くがさっきの一連の出来事の中で不自然なことは何だ?」

「僕が「自分で自分を殴ろう」と考えたことです」

「その通り。明らかに不自然だ。じゃあ、そこから導き出される彼女の『才能ギフト』の正体は?」

「……相手の考えていることを変えられる?」

「そうだ。あの女は『他人の思考を操作する才能』を持っている」

 裕輝は絶句した。

 相手の思考を操作なんてできたら無敵だ。戦っている相手、交渉している相手、その思考を操作すればどんなことだってできる。いや、戦闘や交渉といったものすらできないかもしれない。どちらも彼女が『才能ギフト』を使えばそもそも発生すらしないのだから。

「無敵じゃないですか」

「いや、無敵じゃない。強力な『才能ギフト』であることに間違いはないが。言っただろ、どんな『才能ギフト』にも枷が嵌められるって」

 裕輝は隼人の言葉を思い返す。

 確かに彼は言った。「どんな『才能ギフト』にも制限や制約、代償がある」と。

「あの女が『才能ギフト』を行使できるのは『自分が敵意を持った相手』だけだ。つまり敵意を持てない相手には行使できない」

 ふむふむと裕輝は頷く。そして「ん?」と首を傾げる。

「それって枷になってなくないですか? だって『才能ギフト』を使うのって敵に対してでしょう」

「勿論、枷はそれだけじゃない。一度に思考を操作できる時間、人数にも制限があるし、相手に思考させる内容にも限度がある。それがどの程度なのかは俺も知らないが」

 なるほど。単に思考を操作すると言ってもできることは限られているし、永遠に相手の思考を操作するといったことは無理なようだ。

「それにあの女は『才能ギフト』を行使する度に代償を支払ってる。強力な『能力ギフト』にはメジャーな代償だが」

「代償、ですか。『才能ギフト』を使う度に不幸になるみたいな感じですか?」

「不幸なんて曖昧なものじゃない、もっと明確だ」

 隼人は咥えていたタバコを捨てる。

「奴は寿命を代償にしてる。『才能ギフト』を行使する度、寿命を削ってんのさ」

「なっ⁉︎ でも、さっきあの人は『才能ギフト』を使ってた!」

「あん時も寿命を削ってたんだ」

「嘘でしょ……寿命が削れるのにホイホイと使うのか」

「そこが神様を盲信してる『ギフテッド』の怖いところだ。自分の一切を省みずに、ただ『悪魔』と戦う機械になってる」

 裕輝は戦慄した。

 自分の寿命と引き換えに『才能ギフト』を易々と使うことに。それも一切の躊躇いもなく同じ『ギフテッド』に。

「だから大事になってくるんだ。戦う理由ってやつが。それがないとアイツらみたいになっちまうぞ」

 裕輝は頷いて「戦う理由」と噛みしめるように呟いた。

「まあ、急いだって見つかるもんでもないけどな。それは追い追いで良いだろ。差し当たって大事なのは生き残る術だ。明日からそれを教えていくぞ」

 裕輝は「お願いします」と言って頭を下げた。

 それから二人で最寄りの駅まで歩くと、今日はそこで解散となった。

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『Gifted -ギフテッド-』 うぃる @will-ryu

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